mimic
わたしはむっとして、和金を見ながら言った。


「そんなに面白い?」
「うん、面白い。」


間髪入れずにそう答えた相手に、筋を立てそうになる。すると。


「面白いくらい、妬けるなぁ」


床についていたわたしの手が微動し、肘で缶ビールを倒してしまった。
小麦色の液体は溢れ、流れ、海月の生成りのハーフパンツを汚す。


「ぶつかったの、金魚鉢じゃなくて良かったネ」


いつもの笑顔でそう言って、金魚鉢を指差す姿が無性に、愛しくなって。
海月の腕にきゅうっとしがみつく。この感情の理由はわからないけど、理屈などなかった。


「あーあ、勿体ないな」


わたしはてっきり、床に浅い川を作るビールのことだと思ったけど。


「今夜は、抱くのが勿体ない」


違った。
わたしが勘違いすることを見越していたのか、海月は満更でもない、といった風な余裕の笑顔をこちらに向ける。


「っど、どうして?」


いつもみたいにしてよ。
喉まで出かかった言葉を、最大限の理性で飲み込む。


「可愛い過ぎるから。」
「っ……」


窓の外では、藍色の空に浮かぶ三日月が、欲情するわたしを笑っているように錯覚した。
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