mimic
× − × − ×


「どうです? 金魚とキツネの相性は」


一通りケージの掃除を済ませ、千葉さんはにやにや笑いながら言った。
わたしはお昼の休憩が終わり、売り場に戻ってきたときだった。


「ぼちぼち、です」
「菅野さんの彼氏さんって、優しそうな人だね」
「へ?」
「菅野さんを見つめる目が優しくて素敵だったな……。どんな仕事してるの?」
「庭師、です」
「へぇ、そうなんだぁ。超ハンサムだし羨ましいなぁ」


どう返していいのかわからなくて、わたしは困惑気味に俯く。
千葉さんはシーズーのケージを開け、惜しみなく両手を伸ばした。


「あの、千葉さんは、動物飼ってるんですか?」
「え? えっと……」


シーズーを抱き上げ、背中を撫でながら千葉さんは困惑気味に笑った。


「昔は飼ってたんだけどね。その、天国にいってしまって、かなしくて……」


シーズーは、お母さんに甘えるみたいに、千葉さんの口を舐めようとする。


「もう、あんな思いはしたくないから、さ」


穏やかに目を伏せた千葉さんはか弱い声で言う。
不思議そうに千葉さんの顔を見上げるシーズーに、微笑みかけたときだった。


「お疲れ様です」


黒いポロシャツ姿の阿部店長が、わたしたちを交互に見て言った。


「店長っ、お疲れ様です!」
「お疲れ様です」


今日は朝礼で新店長の紹介があった。
早速女子社員たちからは、今の千葉さんが向けているようなキラキラとした眼差しが一斉に浴びせられていたっけ。
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