mimic
「海月ー、帰ってる?」


仕事が終わり、家に帰ると真っ先に海月がパソコンを持ち込んでいるおじいちゃんの部屋に直行する。
返事がないことに痺れを切らし、わたしは襖を勝手に開けた。


「ねえ、海月?」
「__ぉわ、びっくりしたぁ。小夏っちゃんかぁ」


どうやら今のいままでパソコンに向かっていたらしき相手は、首をぐるりと回して顔だけをこちらに向けた。

いやいやいや、わたし以外な訳なくない?


「仕事?」
「うん、もう少しこもらせて」
「夕飯は?」
「要らない」
「えー……。中華テイクアウトしてきたのに」


わたしは抗議の声を上げた。
それに、


「聞いてよ。今日、阿部店長にね」
「え? アベ?」
「……」


わたしの方なんて最早、見ちゃあいない。
体を完全にパソコンに向き合わせている海月は、画面を凝視したままだ。


「……なんでもない!」


そうですか、わたしよりも仕事の方がそんなに大事ですか。
と、心のなかで悪態ついて、勢いよく襖を閉めた。

なんか、胸の奥がもやもやする。

台所に戻り、紙袋に入った麻婆豆腐を取り出そうとして、やっぱりやめた。
気分転換に散歩でも行こう。秋を迎えたといえど、まだ暑い。海まで出よう。
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