mimic
「__っ、」


心臓を、ぎゅっと掴まれたような感じがした。
わたしと彼女たちの目線の先にいたのは、海月とあの美しい女性だった。


『星香』


急ぎ足で遠のきながら、わたしは一度前を向き、そして再び振り返る。
もう彼女たちの会話の声は聞こえないけれど、笑いながら海月たちのツーショットを眺めている。

ふたりとも正装したような格好で、当然のように連れ立って。

たしかに、お似合いだよ。釣り合ってる。わたしなんかより。


『何度私を裏切ったら気が済むの?』


あれはなに、どういうこと?

わたしのちょっとミーハーな、けれども素直な頭で難しくなく考えれば、ふたりは恋人同士で、海月がわたしと浮気して彼女を裏切った、ってことが、容易に想像できる、けど。


「……嘘でしょ、海月……っ」


わたしを、騙してたの?


『約束、守ってもらうから』


約束、ってなに? 彼女と結婚するってこと?
庭師は従業員特別価格で挙式できる、とか?

またわたし、騙されてたの?
またわたし、ひとりになるの?


『ごめんね、小夏ちゃん』


謝んないで。
謝んなくていいから。

ねえ、海月。
やだよ、


「いや……っ」
< 87 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop