mimic
溢れる涙を拭いもせず、来た道を駆け足で戻っていたわたしは、突然強い光を向けられて頭が真っ白になった。
それが車のヘッドライトだと、なりふり構わず必死で走っていたから発進した車に轢かれそうになったのだと気づいたのは。


「大丈夫ですか⁉︎ って……小夏⁉︎」


驚いた拍子に無格好に尻餅をつき、急ブレーキをかけて止まった車から降りてきた相手を見たときだった。


「ゆ、唯ちゃん……」


お互いが、この偶然を信じられないと感じる時間が数秒流れ、わたしたちは茫然と見つめ合った。


「いきなり飛び出してくるからびっくりしたよ。一瞬なんか動物かと思った」


その変な感傷みたいな時間を打ち消したのは唯ちゃんだった。
困ったように眉を下げ、腰を屈めるとわたしに手を差し伸べた。


「立てるか? 小夏」
「……うん……」


こないだまであんなに、拒否感や嫌悪でいっぱいだったのに。
子どもの頃に戻ったような気持ちで、唯ちゃんの手を握り返す。


「あいつに、会いにきたのか?」


わたしの手を引っ張って、唯ちゃんが言った。


「……う、うん、でも……」


言いかけて、わたしは顔を背ける。


「庭にはいなくて、その……」


なんて言えばいいのだろう。
ほかの女性と式場を見学してたみたいなの、わたしまた裏切られたみたいで、って?

バカみたい……。


「ゆ、唯ちゃんは、ここでなにやってんの?」


立ち上がり、相手の手を離したわたしは、しょうもない自虐から頭を切り離してやや早口で言った。
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