冷徹騎士団長の淑女教育
「……エリック?」

困惑したクレアは、ぴたりと体の動きを止める。だがエリックはクレアの手を捉えると、華麗に誘い馬車から降ろした。

見るからに上質な青色地に金色ボタンのジュストコールは、金髪碧眼の彼に恐ろしいほど似合っていた。いつもの軽い装いよりも、ずっと自然な気がする。生まれながらの彼の気品を、匂い立つように感じた。



「どうして……? アイヴァン様は……?」

後ろの方にでもいるのだろうか。クレアは必死にあたりを見回すが、それらしき人物は見当たらない。

するとエリックが、極上の笑顔で悪びれた様子もなく言った。

「クロフォード騎士団長は、君が城に来ることを知らないよ。僕が彼の従者を丸め込んで、君を誘わせたんだ」

「丸め込んで……?」

クレアは、幾度も瞬きをする。つまり、エリックはクレアを騙したと言っているのだ。

「だって、そうでもしないと君に会えないだろ? 言ったよね? 必ず、また会いに来るって」





エリックの色気たっぷりの笑顔に、辺りの婦人たちがちらちらと視線を送っている。だが、クレアはエリックの極上の笑顔に恐怖心すら感じていた。

変わり者の大公子息だとは思っていたが、度が過ぎている。

それに何より、クレアはアイヴァンにエリックとはもう会わないことを約束したのだ。

子供じみた甘えから幾度も約束を破り、彼を失望させた。もう裏切りたくはない。

「ごめんなさい……。私、帰ります……!」

クレアが踵を返そうとした、その時だった。
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