冷徹騎士団長の淑女教育
「……どうして、そこまでして私を連れ出したいの?」

クレアが低い声を出せば、エリックはふと真顔になって「分からない?」とどこか寂しげに問いかけてきた。

「君に、自由をあげたいんだ。あの邸にずっといても、君は窮屈だろ? 些細なことで悩んで、自分を追い込むだけだ。僕は君にもっと世の中を知ってもらって、明るく生きて欲しいんだ」

エリックの真摯な言葉に、クレアの心が揺れ動く。

常人のとる行動ではないが、これは友人としてのエリックの優しさなのだ。

騙されたのは心地よくないが、エリックに悪気はない。そして、クレアはもう逃げ出すことは出来ない。

そんなクレアの心情を察したかのように、エリックがクレアの手を引き歩み始める。クレアも、黙って彼について行った。

考えてみれば、アイヴァンは国境の警備に赴いているはずだ。そもそも晩餐会嫌いだし、出くわす心配はないだろう。




「それにしても、今宵の君は目のやり場に困るな」

城のエントランスに続く白亜の階段を昇りながら、エリックが今更のように顔を赤らめながら言った。

「どういう意味?」

「……そのドレス、胸元が空きすぎている」

クレアの方を見ないままに、エリックは続ける。

「でも、流行りのデザインだからみんな着てるわ」

「そうかもしれないけど、君が着てると困るんだ」

「どうして? 見苦しい?」

以前にアイヴァンに言われたことを思い出し問い返せば、「まさか」とエリックは唸った。
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