冷徹騎士団長の淑女教育
「彼の、どこがそんなにいいの? 無口で厳格で堅物だ。特に訓練中は鬼のようだって、騎士団員たちは怖がってるよ。君にだって厳しいんだろ?」

エリックの呟きに、クレアはクスリと笑った。騎士団員に厳しく当たるアイヴァンが、容易に想像できたからだ。

「そういうところもひっくるめて、全てが好きなの」

アイヴァンの厳しさの裏には、優しさが潜んでいる。幼い頃、混乱の最中初めて彼に手を握られたときから、クレアはそれを分かっていた。




子供であるクレアの扱い方が分からないと、困ったように謝ってきたこともある。

醜さを他人になじられて落ち込んでいたクレアに、『君は美しい』と、真っすぐな瞳で言ってくれたこともある。

誰よりも深い優しさを人には見せることに慣れていない、不器用で口下手な彼。

そんな彼の全てを慈しみ包み込める、風のような人間になりたいとクレアは思っている。

どんなに苦しくとも、この恋に見返りを求めてはいけない――。

< 108 / 214 >

この作品をシェア

pagetop