冷徹騎士団長の淑女教育
墓地を離れたアイヴァンは再びクレアとともに馬に乗ると、もと来た道を引き返すことなく村の中へと入って行った。

崩れかけた家が点在する、お世辞にも華やかとは言い難い村だった。舗装のされていない道からは土埃が舞い、視界を狭める。畜産で生計を立てている家がほとんどなのだろう。どの家の周辺にも牧場が広がり、家畜小屋からはさまざまな動物の鳴き声が聞こえていた。

アイヴァンは、村はずれにある粗末な石造りの建物の前で馬を停め、クレアを降ろした。

「ここは、何の建物ですか?」

尋ねると、「孤児院だ」という素っ気ない声が返ってくる。




アイヴァンはすぐに、建物の前に設置されていた井戸から水をくみ上げ馬に飲ませた。夏の日照りの中を疾走した馬は、うれしそうにバケツの中の水を舐めはじめる。

「あら、アイヴァンさん!」

建物の中から出てきた女性が、アイヴァンの姿を目にするなり声を上げる。灰色のシスター服を着た恰幅の良いその中年女性は、どうやらこの孤児院の人間のようだ。

中年女性は近づくなり「やだわ」とアイヴァンの腕を豪快にたたく。

クレアは息を呑んだ。公爵嫡男であるアイヴァンは、平民がそのような態度を取ってよい相手ではないし、”さん”付けで呼べるような存在でもないからだ。

「来ていたならおっしゃってくだされば良いものを! みんな、アイヴァンさんが来たわよ~!」
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