冷徹騎士団長の淑女教育
(アイヴァン様がお助けになった子供は、私だけではなかったのね……)

初めて会ったときの、アイヴァンを思い出す。アイヴァンは、クレアと同じように多くの子供に手を差し伸べ、不器用ながらも温もりを与えて続けているのだ。

この十年の間、ときどき長期間クレアのもとに来ないことがあったのも、おそらくそのためなのだろう。アイヴァンは戦のあった国に赴き、哀れな子供を救っていたのだ。

自分だけが特別ではなかったことに気づきつつも、アイヴァンの優しさをクレアは嬉しく感じていた。

アイヴァンを好きになって良かったと、心から思う。




子供たちにもみくちゃにされ、しかめ面を浮かべながらも、子供を抱き上げたり飴を渡したりしているアイヴァンの手つきは優しい。微笑ましくなりながらそんなアイヴァンに見とれていると、トン、と何かがクレアの足にぶつかった。

「おねえちゃん」

小さな女の子が、どんぐりに似た大きな瞳でクレアを見上げていた。歳は、七、八歳だろうか。痩せっぽちで手も足も枯れ葉のように細いく、肩にやっと届く長さの髪はパサついている。

「おねえちゃんは、アイヴァンさんの奥さん?」

クレアは驚くとともに、小さく笑った。自分も子供の頃、こんな風に大人を見ていたことを思い出す。大人から見れば十八歳と三十歳とでは判然とした差があっても、子供にしてみれば十八歳も三十歳も何ら変わりはないのだ。

「いいえ、違うわ。あの人は、心に決めた女の人がいるの」

「ふうん、そうなんだ。お似合いなのに残念」

無邪気な少女の言葉に、クレアは微笑む。アイヴァンとお似合いなどと言われたことは、生まれて初めての経験だ。

「だってアイヴァンさんってすごくかっこいいでしょ? おねえちゃんも、同じくらい綺麗なんだもん。私もおねえちゃんみたいに綺麗になりたい」

「……ありがとう」


< 141 / 214 >

この作品をシェア

pagetop