冷徹騎士団長の淑女教育
(この紋章は……)
額縁を持つ、アイヴァンの指先が引きつった。
珊瑚の置物に隠されるようにして置かれていたタペストリーには、ギマイラと呼ばれる双頭の獅子の絵が描かれていた。
今は亡き、バロック王国の紋章だ。
鼓動の速まった自らの心臓の音を聞きながら、アイヴァンは目の前に掲げられたダグラスの肖像画に視線を移す。
銀フレームの眼鏡に、後ろで束ねたダークグレーの髪。城内で幾度も見かけた、彼そのものだ。眼鏡の向こうで穏やかに微笑む瞳が不気味に感じるのは、気のせいではないだろう。
じっと見つめるうちに、アイヴァンはある記憶を手繰り寄せる。
それは十年前、バロック王国から罪を犯した宰相リーチェをユーリス国に連れ帰り、極秘に処刑を執行したあとのことだった。
リーチェとともに連行された近従三人は、数日間に及ぶ投獄ののち釈放されることとなった。
そのうちの一人に、この肖像画の面影が重なる男がいたのだ。
若返らせ、眼鏡を外し、ダークグレーの髪を漆黒にしたら――。
「なんてことだ……」
アイヴァンは、苦悶の声で唸った。
紛れもない、ダグラスはあの男だ。バロック王国の宰相リーチェの、側近だった男。
いや、そもそもリーチェとして処刑された男は、替え玉だったのかもしれない。リーチェは恐ろしく機転のきく侮れない男だった。
おそらく、あの男こそがリーチェ本人だったのだろう。
まさか執務官ダグラスとして生まれ変わり、ずっとクレアの行方を追っていたのか。
アイヴァンは唇を噛み、行き場のない悔しさをぶつけるように拳で壁を激しく叩いた。
そこで、おもむろに背後にある玄関扉が開く。
額縁を持つ、アイヴァンの指先が引きつった。
珊瑚の置物に隠されるようにして置かれていたタペストリーには、ギマイラと呼ばれる双頭の獅子の絵が描かれていた。
今は亡き、バロック王国の紋章だ。
鼓動の速まった自らの心臓の音を聞きながら、アイヴァンは目の前に掲げられたダグラスの肖像画に視線を移す。
銀フレームの眼鏡に、後ろで束ねたダークグレーの髪。城内で幾度も見かけた、彼そのものだ。眼鏡の向こうで穏やかに微笑む瞳が不気味に感じるのは、気のせいではないだろう。
じっと見つめるうちに、アイヴァンはある記憶を手繰り寄せる。
それは十年前、バロック王国から罪を犯した宰相リーチェをユーリス国に連れ帰り、極秘に処刑を執行したあとのことだった。
リーチェとともに連行された近従三人は、数日間に及ぶ投獄ののち釈放されることとなった。
そのうちの一人に、この肖像画の面影が重なる男がいたのだ。
若返らせ、眼鏡を外し、ダークグレーの髪を漆黒にしたら――。
「なんてことだ……」
アイヴァンは、苦悶の声で唸った。
紛れもない、ダグラスはあの男だ。バロック王国の宰相リーチェの、側近だった男。
いや、そもそもリーチェとして処刑された男は、替え玉だったのかもしれない。リーチェは恐ろしく機転のきく侮れない男だった。
おそらく、あの男こそがリーチェ本人だったのだろう。
まさか執務官ダグラスとして生まれ変わり、ずっとクレアの行方を追っていたのか。
アイヴァンは唇を噛み、行き場のない悔しさをぶつけるように拳で壁を激しく叩いた。
そこで、おもむろに背後にある玄関扉が開く。