冷徹騎士団長の淑女教育
「それから、私は悲観にくれている王の妃の座に治まった。そもそも、ハワードは本来私と政略結婚する予定だったのよ。だけどハワードが乳母兄弟に入れあげて、時期が遅れてしまっただけ。私は、軌道を修正してあげたの。あなたとあなたの母親、二人を彼の前から消すことでね」

見たこともない亡き母に対するやりきれない思いが、クレアの胸の内にみるみる溢れていった。

クレアは、今まで魔女の意味をはき違えていた。魔女は、髪色が醜いとか、不気味な痣があるとか、そういうものではないのだ。美しい仮面を身に付けていても、心の奥底まで真っ黒に染まっている女のことをいうのだろう。

心の目の前にいる、この女のように。

動揺が極致に達すると、不思議と気持ちが落ち着いていった。

代わりにクレアの胸の奥底に湧き上がったのは、感じたことのない激しい怒りだった。目の前の魔女をしっかりと見据え、落ち着いて口を開く。

「あなたは……何者なのですか?」



デボラの話を聞いて、クレアはある違和感を覚えていた。

政略結婚を延期されたからといって、人を殺めたり、赤子をさらわせたり、非道極まりない行動をとるだろうか?

デボラの言い分には、ウインストン家、もしくはユーリス王国に対する根深い怨恨を感じた。

クレアはかつて、王妃デボラは遠い西国出身だと聞いたことがあるのを思い出す。西国の侯爵家の一人娘で、若い頃から男の視線を一心に浴びてきたそうだ。侯爵家の一家がユーリス王国を訪問した際、前国王がエキゾチックなデボラの容姿をいたく気に入り、ぜひ息子の妻にと申し出たのは有名な話だ。

西国はこの界隈にはない物資が豊かで、強い繋がりが欲しかったというのも、前国王がデボラを求めた理由のひとつだろう。




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