冷徹騎士団長の淑女教育
デボラが言い切るなり、ダグラスがクレアの方へと歩み出た。

その手には短剣が握り込まれている。

ぞっとしたクレアは、思わず後ずさりをする。だが不敵な笑みを浮かべたダグラスは徐々に近づいてきて、クレアを部屋の隅にまで追いつめた。

「あの醜かった娘がこうも美しく化けるとはね。醜さゆえに、王女であることは見抜かれまいと、生かし続けたのがそもそもの間違いだった」

ブツブツと呟きながら、ダグラスがさらにじりじりと迫ってきた。



バクバクと鼓動を速める自らの心臓の音を聞きながら、クレアは微かに体を震わせた。

その時、かつて聞いたアイヴァンの声が脳裏に蘇る。

『この国は、平和だ』

冷たいようでいて、温もりを秘めた、クレアが愛してやまない声。

『それは今の国王が、戦を好まないからだ。陛下は、他国のように領土を広げることに野心を燃やすのではなく、民の平和を一番に願っている』

今になって、ようやく分かった。

アイヴァンがなぜ、これほどまでにクレアを厳しく躾けたのか。

『この先君主が代わったとしても、その考えは変わってはならない。ここにいるような子供たちを、増やさないために。そう思わないか?』

――彼は、クレアに次期王位継承者としての教育を施していたのだ。

正体の知れない敵から身を守るため、外出すらほとんど許さずに。




クレアは気づいた。

自分は今、目の前の悪者どもに決して屈してはいけない。

彼の努力と誇りを、無駄にしないためにも。
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