冷徹騎士団長の淑女教育
「……アイヴァン様は、私のことが嫌いなのでしょうか……?」

窓の外は、すっかり闇に包まれている。クレアはランプの明かりだけが頼りの暗い食堂で、冷え切ったスープを口に運びながら、近くにいるレイチェルに思わずそう呟いていた。

アイヴァンの厳しさは、執拗だった。それに幼い頃から家事労働ばかりしてきたクレアにとって、慣れない勉強は酷だった。



アイヴァンは、ついさっきこの邸を離れ本宅に戻ったばかりだ。レイチェルはクレアのカップにあたたかなミルクを注ぎながら、困ったように眉を寄せた。

「まさか、そんなわけはございません。嫌いでしたら、アイヴァン様はあなたをこの家に連れて来られたりはしなかったでしょうから」

それなら、きっとここに住まわせることを決めた後で嫌いになったに違いない、とクレアは思う。クレアが醜く弱いことに気づいて、嫌気がさしたのだろう。そうでもない限り、あんな厳しい態度はとらないのではないだろうか。

「正直に言いますと、私もあんな風にアイヴァン様が仕事以外で他人に厳しくするところは初めて見ました。でも、厳しさも優しさのうちだと思いますけどね」

落ち込むクレアに、レイチェルは諭すように言葉をかける。

だがレイチェルの励ましは、クレアの心に全く響かなかった。



アイヴァンは、レイチェルに対しては優しかった。ねぎらいの言葉をかけ、話すときには笑みまで浮かべていた。

だが、クレアを見る目はどこまでも冷たかった。その対比を思い出すたび、クレアはまた落ち込むのだった。
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