冷徹騎士団長の淑女教育
「どこがって……」

エリックは困惑した声を出すと、クレアの顔から胸元へとゆっくり視線をおろした。

途端にほのかに顔を赤くし、エリックはそれを隠すように腕でかばいながらそっぽを向く。

「そんなこと……、言えるわけがないじゃないか」

「………?」

「とにかく、君が誰かの言動で自分のことを大人の女性だとは思っていないのなら、そいつの目は節穴だ」

気品ある見かけに反して、なかなか痛烈なことを言う。

「僕には見る目があるよ、クレア」

エリックは色っぽい眼差しをクレアに向けたあとで、おもむろにポケットから何かを取り出し、無防備だったクレアにの掌にそれを収めた。

それは、すずらんの花だった。

「良かった、つぶれてなくて。野道に咲いていたこれを君に届けたくて、これでも決死の覚悟で塀をよじ登ったんだよ」



小さな白い花が、クレアの手の中で微かに揺れている。微笑ましい気持ちになって、クレアは顔を綻ばせた。

「かわいいわ」

クレアの笑顔を目の当たりにして、エリックが照れたように口元だけで微笑を返す。

「この間、君のブレスレットにすずらんの花模様が刻まれているのを見たから、きっと好きなんだろうなって思ったんだ」




クレアははっとして、左下手首の特注のブレスレットを手でおさえた。一瞬あの醜い痣に気づかれたかもと慌てたが、落ち着いて考えてみればその心配はない。痣は、ブレスレットの下に綺麗に隠されているのだから。

それにエリックは、クレアの醜い痣を見ても、ひどいことを言ったりはしないだろう。アイヴァンとレイチェル以外に、信頼関係を築けそうな人に初めて出会った。






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