冷徹騎士団長の淑女教育
「それでは、参りましょう。アイヴァン様が、お城でお待ちかねです」

従者に手をとられ、クロフォード家の黒塗りの馬車に乗り込む。爽やかな夏の風が流れる空は、熟した木苺のような色に染まっていた。こんな時間に邸を出ることなど、いつぶりだろう。

「クレア様、楽しんできてくださいね!」

「ええ、レイチェル。こんなに素敵にしてくれて、本当にありがとう」

レイチェルとしばしの別れを惜しんだあとで、馬車は馬の嘶きとともにクロフォード家の別宅前を離れた。



クレアを乗せた馬車は、ユーリス国の王城に向けて、軽快に走り出す。

生い茂る緑が徐々に減っていったかと思うと、土道が煉瓦で舗装された道に変わった。そして家屋や店が立ち並ぶようになり、人や馬車の往来が激しくなる。

クレアを乗せた馬車がアルメリアの中心部に辿り着くころには、辺りはすっかり日が落ちていた。

星がちらほらと瞬く群青色の空に、やがて広大な白亜の城が姿を現した。
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