約束~悲しみの先にある景色~
バタンッ……



キムさんが座っているソファーの真後ろで、倒れた。


「え?」


キムさんの声が、聞こえる。


「ちょっと、瀬奈ちゃん?どうしたの!」


慌てふためき、後ろを向いてソファーから身を乗り出し、そのまま華麗に私の隣に着地する彼の姿が、ぼんやりと私には見えた。


「瀬奈ちゃん!どうしたの!?ちょっと、誰か居ないの?アッパ!オンマ!…아무도 않 잖아!(誰も居ないじゃん!)…瀬奈ちゃん、大丈夫!?」


パニックの余り韓国語と日本語が混ざりながらも、必死に私に呼び掛けるキムさん。


「……あの、私、大丈夫です…」


仰向けになって近過ぎる彼の顔を見ながら、私はそう言って起き上がろうとするけれど。


(?……力が、入らない)


やはり、睡眠は大事だったらしい。


そんな事に今気づいても、到底遅くて。


「瀬奈ちゃん、それ絶対……睡眠不足だよ。もう寝ちゃいな」


今ここで寝てもいいよ。寝たら、瀬奈ちゃんの部屋に連れてってあげるから、と優しいトユンさんは提案してくれたけれど。


「……や、です」


重い瞼を必死に持ち上げながら、私は掠れた声で抗議する。


私の視界いっぱいに広がるトユンさんの眉が、怪訝そうにひそめられた。


「……どうして」


「……」
< 246 / 329 >

この作品をシェア

pagetop