約束~悲しみの先にある景色~
脳裏に浮かぶのは、


『楽しい事しよう…?』


と、笑っていない目をこちらに向けながら、気持ち悪く口角を上げて手招きをする悪魔の姿。


今まで彼を見たくなくて、思い出したくなくて眠るのを避けていたのに、今回は私から彼の方へ行く行為に出るなんて。


信じられないし、眠いし寝たくないし、はっきり言ってもう嫌だ。


安心も安眠も出来るはずがない。


「っ……、」


包丁を突き付けられたあの恐怖が蘇ってきて、率直に怖くて怖くて怖くて。


あの日の心情が私を支配して、意図せずとも一筋の涙が頬を伝う。



そして。


『良い子だね、瀬奈ちゃんは』


耳を塞ぎたくなる程のざらついた声が、耳元で聞こえて。


抵抗も拒否も出来なくなった私は、とうとう意識を手放した。





─────────────────…………



『ふふ、…楽しいね、瀬奈ちゃん』


『んっ………!』


私は、机の脚に自分の片足を紐で固く縛られた状態のまま、必死に床に置かれた画用紙に漢字の練習をしていた。


楽しいも何もない。


書き順通りに書かないと殺される…と言うより、殺されるのに近い行為をされるし、少しでも字の大きさが大きくなったり歪になったら、今日のご飯は抜きだろう。


と言っても、私は昨日から水以外何も口にしていないけれど。
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