約束~悲しみの先にある景色~
『…あれ瀬奈ちゃん、ここ曲がってるよね?とうとう鉛筆も持てなくなったの?俺がこんなに教えてるのに、書き方も忘れたの?』


小学3年生なのに、“罪と罰”という難しい文を何行も書いていた私の字に、とうとう指摘がされた。


(…!)


お父さんがもの凄い至近距離で私と画用紙を見てくるから、先程から手が震えて上手く鉛筆を持てないのだ。


それに、文字を書けたとしても手に力が入らないから上手く字の曲線が書けない。


『…、ごめんなさい、書き直しま』


『これだから使えねぇんだよクソが!お母さんも俺もお前の事を産みたくも育てたくも無かったんだ、いっその事捨ててぇんだよこっちは!』


慌てて消しゴムを手に取った瞬間、お父さんに頬を叩かれた。


私は勢い良く体勢を崩し、床に倒れ込んだ。


咳をしたら口から飛び出した血のせいで赤く染まった画用紙を見て、ようやく自分の顔の痛みに気が付いて。


『ぁ、やあっ、ん、……………!』


声を出して泣き叫びたいのに、恐怖に負けている私はそれすらも出来なくて。


嗚咽が喉に詰まり、ただ頬を抑えながら激しくしゃくりあげる事しか出来なかった。


『漢字も書けない、計算も出来ない、おまけに受け答えも出来ない…。何でお前はこんなにゴミなんだろうな』
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