約束~悲しみの先にある景色~
夢での出来事を“夢”だと分かれば良いのに、頑張って目を覚ませばいいのに、私には夢を見ている間、それが夢か現実かの区別もつかない。


「もう、寝ない様にしよう」


時刻は確認していないけれど、寝れた事は確かだ。


(水、飲もうかな……)


起きていない脳を目覚めさせようと、私は1階に水を飲みに行く為にドアを開けた。



そして。


「、ひっ……!?」


息を飲んだ。


と言うより、呼吸が止まった気がした。


時間が止まった気がした。



何故なら、そこに立っていたのは、今まさに刑務所に居るはずのお父さんだったからだ。


(やだ、何で…!?)


意味が分からない、これは一体どういう事なのだろう。


今すぐドアを閉めなければ、殺されるかもしれない。


包丁を持っているかもしれない。


そう思っているのに、私の身体は動かなくて。


「…瀬奈ちゃん、大丈夫?」


そして、お父さんが口を開いた。


(何、“大丈夫?”って!?)


偽りの優しさなんて要らない。


そんなものをお父さんに求めたくはない。


愛も優しさも同情も励ましも、何も与えてくれなかったのに。


(殺される!やだっ!)


既に涙腺が崩壊して涙が流れ落ちる中、私は震える足を何とか動かし、そろそろと後退して。
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