約束~悲しみの先にある景色~
確か、マンネがそうやって独りになりたくないと言っていた時に、傍で話し相手になったのは俺だ。


仕方ない、この際眠いなんて言ってられない。


俺は、また義理の妹のベッドの隣に座り込み、宙に伸ばしたままの彼女の手を両手で包み込んだ。


「はあっ、はあっ……」


汗びっしょりで、彼女の額にかかった前髪はぐっちょりと濡れている。


「瀬奈ちゃん」


俺は、そんな彼女の名前を呼んだ。



「っ………」


肩で呼吸をしていた瀬奈ちゃんは、俺の声を聞いた途端に黙り込んで。


「もう大丈夫だよ。…俺はここから離れないから」


一言一言、眠っている彼女に、きっと悪夢を見ているのであろう彼女に、届く様に。


大丈夫だと、絶対に彼女の傍についていると。


「………」


彼女の手は、まだ微かに震えている。


「瀬奈ちゃんは、独りじゃないから。俺が傍に居るよ」


いつかマンネに言った様な、これからも言うだろうその台詞を、今回は瀬奈ちゃんに向けて。


『誰かが傍に居てくれるだけで、僕安心し過ぎて死んじゃいそう』


そうやって泣きながら笑っていたマンネの言葉を思い出して、彼女にも安心して欲しくて。


「っ………」


「だから……瀬奈ちゃんなら大丈夫。大丈夫だよ」


俺は、うなされている瀬奈ちゃんの手を握る力を強めた。


すると彼女もそれに応える様に、俺が彼女の手を握り締めてから初めて、自分の手に力を入れてきて。


「っ…、お兄…ちゃ…」


そう安心した様に呟きながら、瀬奈ちゃんは目尻から一筋の透明な線を描いた。
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