約束~悲しみの先にある景色~
「っ…?」


また何かされるかもしれないという恐ろしさから身体を縮こまらせた私は、言葉の意味を理解して首を傾げた。


(何で…?)


きょとんとした表情を浮かべる私に、お父さんは前と同じ様な恐ろしい笑みを浮かべて。



「言ったらどうなるか……分かるよな?」


そう、聞いてきた。


「え、」


(言ったらどうなるか?…どうなるの……?)


頭の中をぐるぐる回る質問に、私が必死に考えて答えを出そうとしていると。


突然、お父さんが私の右肩を撫でた。


その右肩は、私が包丁を突きつけられた方の肩。


(えっ……!)


そのジェスチャーの意味は、幾ら小学1年生だとしても、考えるまでもなかった。


(言ったら、私はまた包丁で……)


(刺されるんだ)


もっと悪く考えたら、お母さんも刺されてしまうかもしれない。


(……そっか、私が言わなければ良いんだね)


今ではお父さんよりも大好きなお母さんに、こんな思いは味わって欲しくない。


「っ、…うん」


だから私は、何度も何度も頷いた。


(私が言わなければ大丈夫)


(お母さんは、大丈夫)


それだけを、思いながら。



私の必死な頷きのおかげもあり、私のジェスチャーを見たお父さんは軽く頷いて私から離れた。
< 38 / 329 >

この作品をシェア

pagetop