約束~悲しみの先にある景色~
だから私は、泣きながら震える手で自分の足を指差した。


「ん、足?どれどれ、見せて……あららら、ガラスが刺さってるじゃない!しかも、こんなに沢山!…お父さん、瀬奈は何をしたの?瀬奈、靴下脱げる?うん、ゆっくりで良いからね」


すぐ様私の足から流れ出る血に気が付いた彼女は、慌てて買い物袋をテーブルの上に置き、私の隣で靴下を脱ぐのを手伝ってくれた。


「いや、俺が目を離した隙に瀬奈がガラスの上を歩いたらしくて…。その泣き声で俺も気がついたんだ。俺が瀬奈に駆け寄った時に、お母さんが帰って来たんだよ」


お母さんの背後で立ちながら事の経緯を説明するお父さんが、私に向かって気味悪く笑っているのが見えた。


(何で、笑ってる……の…?)


(何で、嘘ついてる……の…?)


それを見て、何とも言えない感情がせり上がってきて。


心配したお父さんが私に駆け寄ったなんて、真っ赤な嘘ではないか。


彼が目を離した隙に私がガラスの上を歩くなんて、するはずがない。


自分から怪我をしに行く行為なんて、するわけがないのに。


私はお父さんに、やらされただけだ。



「ああ、そうだったのね…。瀬奈、割れたガラスの上は歩いちゃ駄目だからね。危ないし、今みたいに血が出るから。もしも食器を割ったら、お母さんかお父さんに報告しなさい」
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