約束~悲しみの先にある景色~
「うん、そうしてくれる?」


お母さんは、先にお風呂場へと向かってしまった。


「お母、さ……!」



お父さんに抱かれるだなんて、嫌だ。


前までは喜んで抱きつきに行っていたけれど、あんな事があった直後だからやはり気が引ける。


それに、正直に言って今のお父さんは少し怖い。


思わず助けを求めようと、私は既に視界から消えた彼女に向かって手を伸ばしたけれど。


「瀬奈何やってるの、ほら抱っこするから」


いつもの、お父さんの優しい声が頭上から聞こえ。


(あれ……?)


(何か、違う……?)


私が彼の変わりように小首を傾げた瞬間、私はお父さんによって抱きかかえられていた。


お父さんのあたたかな温もりが、触れた身体から伝わってくる。


(あれ、お父さん……怒ってない?)


(さっきまでのは…夢だったのかな?)


何だか、良く分からない。


そのまま、私はお父さんに担がれてお風呂場へ向かった。



お風呂場では、お母さんが既にバスタオルとシャワーの準備をしていた。


「瀬奈、こっち来て。足出して…そうそう、良い感じ」


ガラスの破片が刺さったら、流水をするという事を知らない私。
< 45 / 329 >

この作品をシェア

pagetop