約束～悲しみの先にある景色～

その瞬間。


｢うん、お母さんは今日は帰って来れないみたいだよ｣


｢…ふふ、嬉しいんだね、ありがとう｣


そう、微かに笑ってこちらに振り返ったお父さんの目は、前と同じ、濁った色をしていた。


｢えっ…？｣


お礼を言われ、嬉しくなった私は彼の方へ振り返り、見事なまでに動きを止めた。


アニメの音が、雑音にしか聞こえない。


｢……瀬奈、遊ぼうか？｣


“遊ぼうか？”


その声が、何重にも重なって私の脳内に直接響いてくる。


｢あ………｣


瞬間的に蘇るのは、約1ヶ月前のあの日の出来事。


自分に都合良く塗り替えていたあの時の記憶が、音を立てて崩れ落ちる。


｢あ、やっ………｣


(今のお父さんは、前と同じ)


本能的に、危険だと感じた。


少しずつすり足で近寄ってくるお父さんから逃げなければいけないと、私の脳が叫んでいる。


｢おと、……さ、待って…！｣


座っていた私は、足をもつれさせながら立ち上がった。


｢瀬奈、遊ぼう？ほら、夜ご飯も食べていないじゃないか｣


｢いら、要らないっ……｣


今の状態のお父さんと食事なんてしたら、毒でも入れられるに決まっている。