約束~悲しみの先にある景色~
私に包丁を突きつけた時よりは静かな声だけれど、それでも。


お父さんがまた豹変してしまった事実に、変わりはない。


「…瀬奈ちゃんは、お父さんの言う事が、聞けないのかな?」


ゆっくりと近付きながら、ゆっくりと質問してくるお父さん。


ちゃん付けをしてくる時点で、鳥肌が止まらない。


ペロリと、彼が舌なめずりをした気がした。


(ちょ、待っ……!)


(どうしようどうしよう、やばいどうしよう!)


何も言えないまま、怖過ぎてあの時と同じ様に後退りをする私。


「あれ、瀬奈ちゃんはお父さんの質問にも答えられないのかな?」


(違……っ、)


首を横に振りながら、私はじりじりと後ろに下がっていく。


足ががくがくと激しく震えて、掴まる物がないせいで今にも倒れそうだ。


「瀬奈、お父さんの言う事は、聞けるよな?」



トンッ……


その瞬間、私の背中が壁に着いた。


もう、彼からは逃げられない。


「ふふ、瀬ー奈ちゃん?…人の質問には、きちんと答えないとね」


私が身動きが取れなくなった事を確認した彼は、猛獣の様なギラギラしたあの目をして、急に大股で近付いてきた。


「やっ……!」


(お父さん、優しいって思ってたのにっ!)
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