約束~悲しみの先にある景色~
「っ、!」


耳にふっと息をかけられ、私はすぐに不快な気持ちになる。


たったそれだけで、胸がむかむかする。



(気持ち悪いっ……)


私が、胸の違和感に必死に耐えていると。


「…お前には、きちんと社会に出た時の為にしつけをしないといけないね」


お父さんに不思議な事を言われ、不思議に思った私がうっすらと目を開けた瞬間。



バチンッ……



「やっ!?」


張りのある、傍から聞くと清々しい様な音が、部屋中に響き渡った。


「っ、何…したのっ、?」


完全に考える事を止めた私の脳では、お父さんに何をされたか良く理解が出来ない。


目を開けたはずなのに、私の瞼は私の両目を守るためにしっかりと閉じてしまっていた。


(あれ……?)


何故だろう。


私の左頬が、痛い。


「っ、……」


思わず、左頬に手を当てると。


触れたそこは、じんじんと熱を持っていた。


「えっ……おと、…な…っ…」


言葉にならない言葉が、私の口から零れ出た。


今まで、家族はもちろん、友達にも親戚にも、誰にもされた事の無かった行為。



私は、お父さんに平手打ちをされたのだ。


初めて感じる、叩かれた直後の痛み。


「っ、痛い……っ」


私の瞑ったまつ毛が震え、そして濡れた。
< 53 / 329 >

この作品をシェア

pagetop