約束~悲しみの先にある景色~
「悪い子には、しつけをしないといけないんだよ」


前とは違って、お父さんは少し優しめに話しているつもりかもしれないけれど、それは逆効果だ。


いつあの恐ろしいお父さんに豹変するか分からないし、ただでさえその喋り方に私の恐怖は倍増していく。


「や……止めて、」


左頬を押さえながら、私は口を開いて小声でそう言ったけれど。


「ごめん、何も聞こえないわ‪」


「そんな事より、もっともっとしつけをしないとね」


鼻で笑った彼が、立ち上がる気配がした。


「な、何する…の?」


恐る恐る目を開け、何故かお父さんのクローゼット方へ向かう彼を不思議に思った私が震える声でそう聞くと。


「いちいちうるせえな、少し黙ってろよ!…俺がしつけするって言ってんだからやる事はしつけだろうが」


(や、だ……)


急に、お父さんが怒鳴った。


もうすぐで夏だというのに、ぞわぞわぞわっと身体中に鳥肌が立つ。


1か月前と同じ様に豹変してしまった彼に、そのしつけの内容を知りたいの、なんて、口が裂けても言えない。



どうしよう私はどうすればいいどうしよう、と、身体を出来る限り縮こまらせて上手く回らない頭を回転させて考えていると。


というより、同じワードを頭の中で繰り返すだけで、お父さんが恐ろし過ぎて考えてすらいなかったけれど。
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