約束~悲しみの先にある景色~
「っ、…ヒック、…ヒック……、うっ…」


ガラスが刺さる。寸前で目を閉じて歯を食いしばったお陰で、何とか大した怪我はしなかったけれど。


それでも、痛いのは変わらない。


身体も心も、この短時間でボロボロだった。


(このままじゃ駄目だ、返事をしなきゃ)


(はいって言えばいいだけ、はいって…)


頭では理解しているのに、唇が両面テープで止められたかの様に開かない。


段々と息が荒くなっていく彼の呼吸を聞き、止まる事を忘れた涙が我先にと床に落ちていく。


(やだ待って、違うのお父さん何も言わないでっ…)


とにかく怖くて、解決策なんて何も無くて、返事をすればいいのに何故かそれが出来なくて、なのに嗚咽と涙だけが漏れていく。


「おい聞いてんだよ、答えろよ!聞こえてんだろクズ!いちいちギャーギャー泣いてねえで答えろって言ってんだろうが!」


そして。


私は、先程よりも強い力で左頬を叩かれた後、彼の片足によってお腹を蹴られ、これでもかという程壁に押し付けられた。


(うっ……、やめ……お父さ、やめて…!)


お父さんの足の押す強さで胃が収縮され、何かが逆流してくる感覚に襲われる。


「い、やっ……」


そして、その瞬間。


「やだあっ!ごめんなさい!お父さんごめんなさい!」


私は、ありったけの声で叫んだ。
< 58 / 329 >

この作品をシェア

pagetop