約束~悲しみの先にある景色~
とにかく、血が出るまで“しつけ”や“お仕置き”という名の虐待は終わらなかった。


いや、血が出ても終わらない方が多かったけれど。


お父さんのせいで私は痩せ細り、目にはクマが出来、学校の先生や友達、お母さんにまで相談が出来ないせいで精神的にもやられていた。


もちろん、肉体的にもやられていたけれど。



そんな私にも、唯一の心の拠り所があった。


それは、“もしも自分に兄が居たら”と考える事だった。


もちろん現実には私の兄は居ないわけだから、私は頭の中で理想の兄を想像していた。


空想上の兄は、私より少しだけ年上で、いつも優しくて、笑顔で、笑った顔を見るだけで疲れも悲しみも苦しみも全て吹き飛んでしまう様な、そんな人で。


虐待されている時、このままでは死ぬのではないかと本気で考えた時、死んだ方がましかもしれないと泣きながら考えた時。


暗闇に閉じこめられた時、溺れた時、身体から血が流れた時、身体中が痛い時、とてつもない恐怖に襲われた時。


そんな時にいつも思い浮かべるのは、自分で作った兄の事だった。


『お前なんて生まれて来なければよかったんだ!』


お父さんにそう言われて、ただ泣いて泣いて、


(私も生まれてきたくなかった)


と考えた時に。
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