迷子のシンデレラ

 いつもの日常がそこにはあった。
 違うのは部屋の片隅に掛けられた華やかなドレス。

 体の、特に下腹部に違和感はあるものの、それは見ないように努めた。

 小さなアパートでシャワーを浴びようと浴室へ入る。

「ひどい顔」

 鏡に映し出された顔は、つけまつげは外れ、アイシャドーも濃いクマのように目の下についている。

 撫でられても剥がれなかったホクロに感謝しつつ、爪で引っ掻くとすんなりと消え去った。

 レバーを押し上げてシャワーを出すと、排水口へ深いため息とともに流れていく。
 熱いお湯を浴び、昨晩の夢を忘れられるように小さく唱えた。

「大丈夫。私は榎下智美。
 平凡な庶民で、しがない会社員。
 昨日は夢。大丈夫。忘れられる」

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