迷子のシンデレラ
胸元を見て、ハッと息を飲む。
「指輪……」
普段、外すことのない指輪は彼の要望で珍しく首から外した。
慌てて逃げる時にそれを忘れて来てしまったのだ。
どうしよう。もう取りには戻れない。
頭を抱えてみても指輪が戻るわけもない。
不意に「これは、僕がもらってもいいってことかな?」と言った彼の言葉が蘇った。
母の希望とは違う形になってしまったけれど、これで良かったかもしれない。
そう自分の中で納得させた。
浴室から出て体を拭くと幾分気持ちもサッパリした。
早急に全てを元通りにさせようと携帯を手にした。
『昨日は勝手に帰ってごめん。
借りたドレスはどうしたらいい?』
このドレスを目に映すとどうにも思い出してしまう。
彼の息遣いに、彼の温もり、それに彼の熱い……。
せっかく忘れそうになっても、ドレスが忘れさせてはくれない。
全てを鮮明に思い出しそうになって頭を振る。