迷子のシンデレラ

 胸元を見て、ハッと息を飲む。

「指輪……」

 普段、外すことのない指輪は彼の要望で珍しく首から外した。
 慌てて逃げる時にそれを忘れて来てしまったのだ。

 どうしよう。もう取りには戻れない。

 頭を抱えてみても指輪が戻るわけもない。

 不意に「これは、僕がもらってもいいってことかな?」と言った彼の言葉が蘇った。
 母の希望とは違う形になってしまったけれど、これで良かったかもしれない。
 そう自分の中で納得させた。

 浴室から出て体を拭くと幾分気持ちもサッパリした。
 早急に全てを元通りにさせようと携帯を手にした。

『昨日は勝手に帰ってごめん。
 借りたドレスはどうしたらいい?』

 このドレスを目に映すとどうにも思い出してしまう。
 彼の息遣いに、彼の温もり、それに彼の熱い……。

 せっかく忘れそうになっても、ドレスが忘れさせてはくれない。
 全てを鮮明に思い出しそうになって頭を振る。

< 20 / 193 >

この作品をシェア

pagetop