迷子のシンデレラ
一夜の夢を本物の夢にすべく、ドレスを返してしまいたかった。
連絡したのは朝岡恵麻。
朝岡物産のご令嬢で昨晩の仮面舞踏会も本来なら恵麻だけが参加すべきパーティだった。
そこへ智美も参加したのには、紆余曲折した事情があって、端的に言えばお嬢様である恵麻の気まぐれだった。
遡ること半日前。
智美は別世界に目を丸くしていた。
「智美。何をぼんやりしているの?
早く好きなのを選んで」
色とりどりで、まばゆいキラキラしたものばかりの部屋に圧倒されて目眩がする。
動き出そうとしない智美とは対照的に恵麻は至極楽しそうだ。
「これなんか似合うんじゃないかしら。あ! これも可愛い!」と、はしゃいでいる。
早くもお気に入りを数点見繕って両手に抱えると踊るように振り返って智美へ見せた。
「ねぇ。智美はどれがいいの?」
いくつものドレスを手にした恵麻はあたかも色の洪水で智美は溺れかけていた。
それでも、その中の一つのドレスに目を奪われた。
白と水色、薄い紫が恵麻の動きに合わせて移ろいでドレスに違った顔を見せる。