迷子のシンデレラ

 目ざとく「これが気に入ったのね」と恵麻はその水色のドレスを手にして、その他は近くのテーブルへ放り投げた。
 それをスタッフが丁重に片付けている。

 朝岡物産のご令嬢である恵麻はたいていのワガママは許される立場なのだ。
 お嬢様にありがちな気まぐれで、それでいて気品に溢れ、立ち振る舞いは美しい。

 そんな恵麻に控えめで従順で、しかし曲がったことはしない、芯の強い智美は好かれていた。
 それは住む世界の違いや育ってきた環境の違いを超越した親友と呼べるものだと恵麻はいつの日か智美に言ったことがあった。

 そのことが智美には嬉しくて、それ以来、恵麻と付き合うことに遠慮しないように心がけていたし、自分に出来る限り、彼女と金銭面以外では対等でいられるように努力していた。

 だからこそといえば、だからこそ。
 恵麻の気まぐれに智美はこの日も振り回されていた。
 今までも恵麻の突拍子もないサプライズに驚きつつも楽しんでいたけれど、今回はさすがに驚きと困惑が隠せない。

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