迷子のシンデレラ
「ねぇ。やっぱり私には無理だわ」
「あら。どうして。
とっても妙案だと思うわけ」
恵麻が可愛らしいぱっちり二重の瞳を器用にウインクをさせた。
「緊張する……」
「大丈夫よ。背筋をピンとしていれば智美も立派な淑女だわ」
恵麻の隣を歩くのに無様な格好はしていられないと精一杯背筋を伸ばした。
会場へと続く通路は重厚な扉と警備、ヒールでは歩きづらいくらいの臙脂の絨毯。
内心ビクビクしながらも澄ました顔で歩を進めていると様々な人がこちらの様子を窺っている。
羨望の眼差しも感嘆のため息も全て恵麻へ向けられたもの。
恵麻はフランス人形顔負けの華やかな顔立ちをしていた。
髪も自然な栗色で何をしていても目を引く。
けれども気安く声を掛けられないのは凛とした立ち振る舞いが関係しているのだろう。
仲良くしていなければ智美だって気軽に話せる相手ではない。
そんなお嬢様の恵麻と、どうして庶民どころか天涯孤独で底辺にいる智美が富裕層の集まるパーティに来ているのかと言えば、それもこれも恵麻の気まぐれから始まったのだ。