迷子のシンデレラ
「どうしたの?
気に入るのがなかった?」
「あ、いえ。あの、種類があり過ぎて決められなくて」
心配して声をかけてくれる彼へ適当なことを言って誤魔化すと「これなら飲みやすいんじゃないかな」とオススメしてくれるので、そのドリンクを選んだ。
緊張から全身が心臓になったみたいに早鐘を打つ。
「前に、忘れられない女性がいるって話したかな」
智美はドキドキしながらも小さく頷いた。
「彼女は僕が知っている女性と大きく違っていた。
とても控えめで、それでいて凛とした雰囲気を纏っていて。
一目惚れって信じるかい?
きっと僕は一目見た時から彼女に恋をしたんだ」
慈しむように語る彼の顔が見られない。
「小柄な女性で僕が触れると壊れてしまう気がするのに、触れずにはいられなかった」
照明が薄暗いことに助けられた。
陽の光に晒されたら智美の胸の内まで暴かれてしまうだろう。
顔を俯かせ、彼の前では胸元で手を握りしめるわけにはいかず、膝の上で両手を握る。