迷子のシンデレラ

 八つ当たり気味に思いながらも智美を解放する。
 決心が揺らがないうちに彼女へ促した。

「早く手料理を食べされてくれないと、本当に君を食べちゃうぞ」

 すぐ近くで、もたもたしている彼女の耳を食むと「ひゃー!」と悲鳴を上げた智美は耳を押さえてキッチンの方へ逃げていく。

「何やってんだか……」

 自分のしでかした行為にうなだれて再び突っ伏した。

 頬がくすぐったくて目を覚ます。
 薄っすらと開けた先で長い何か菜箸のようなもので智美が頬をつついていた。

「起きました?」

「あぁ……うん。ごめ、また寝てた」

「はい。お疲れですか?」

「まぁ……。
 それにしても箸でつつくなんてひどいんじゃない?」

「だって……」

 警戒している智美に失敗したなぁと反省する。
 部屋に上げても何もなく紳士なままで帰れば彼女が自分を見る目も変わるだろうという決意を固めた上での彼女のアパート。

 どうせ遊んでいるボンクラ御曹司とでも思われているだろうから、そのイメージを払拭したかった。

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