迷子のシンデレラ

「ところでさ。
 僕にはハンカチをくれないのかい?」

 目を見開いて呆然としている智美がおかしくて種明かしをする。

「朝岡さんが教えてくれたんだよ。
 智美は心が綺麗な女性だって。
 だから僕になびいてくれないんだろうって」

 朝岡は核心を突いてくる女性だ。
 さすが朝岡物産のご令嬢と言わざるを得ない。

 今までの自分ではきっと智美には振り向いてもらえない。

「ご冗談がお上手ですね」

 気のある素振りを見せたところで智美は喜んでもくれない。

「冗談は下手なんだよ。全部本心だからね」

 戯けてみせても笑ってはくれない。

「朝岡さんが言っていたよ。
 私は智美と食事がしたいのよ。
 葉山さんなら分かるでしょう?って。
 僕は大きく頷いておいたよ」

 食事をするのはただの口実で、智美と時間を共有したい。
 彼女と過ごすだけで癒されている自分に初めて飲みに行った時から気づいていた。

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