胎動
そう言い、あたしはソレの背中を押した。


何か感づいたのか野良猫たちが親を呼ぶように泣き始めた。


しかし、中にはまだ目が開いていない猫もいて、その場から逃げ出すことはできなかった。


「ほら、頑張って」


そう言うと、ソレが動いた。


最初は警戒するようにゆっくりと距離を縮め、一匹の猫めがけてとびかかったのだ。


子猫が「ギャッ!」と悲鳴のような声を上げる。


ソレは子猫が逃げないよう、長い両手で猫の体を拘束した。


カッと口を開くと怪しく光る牙が露わになった。


あたしはその様子を固唾を飲んで見守った。


猫は何が起こっているのかわからないようで、逃げ出そうともがいている。


けれど、そんな非力でかなう相手じゃなかった。
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