Shooting☆Star
例えば……祐樹だったら。
百香は考える。
「ユウくんが一人でお酒飲んで、どうしょうもなくなった状態って、ちょっと想像出来ないんだけど。でもきっと、そうなるくらいの何かがあったんだろうなって思う……」
ダイチは、考える百香の横顔を見ながら、ああ、百香はそうだよな、いつも相手のことを考えて動く、そういうタイプだよな、と思う。
「だから、相手がユウくんでも、私はここに来てるかな。」
「じゃあ、俺は?どう思った?」
「何か“よっぽどのこと”があったんだと思った。酔って暴れたとか。店に迷惑かけてるとか。」
「俺、信用ないのな。」
拗ねたようなダイチに、百香は微笑む。
「違うよ。“期待を裏切らない”ってこと。」
百香とダイチのやりとりに、マスターがニヤリと笑う。
賭けには負けてしまったけど。それが仕事だとしても、百香が来てくれたことがダイチは嬉しかった。
不意に百香が真顔になった。
「ダイチ、今日のオーディション、悔しかったでしょ。」
「うん、まあ。」
図星を指されて、ダイチは氷の溶けたグラスを見つめる。
「でも、ダイチ、本気でやらなかったんでしょ。オーディションなんてしなくても、自分に決まると思ってた。今更、後悔してる。」
ダイチは驚いて百香を振り返る。優しい口調こそいつもと変わらないが、笑みの消えたその冷たい表情は初めて見るものだった。
その横顔は誰かに似ている。そう思うが、それが誰なのかは思い出せない。
「よっぽどのことだよね。甘い気持ちで、大きい仕事たくさん逃してるんだもん。」
「幻滅したか……?」
「べつに。みんなあることでしょ。本気でやっても出し抜かれることもあるし、棚ボタ的なラッキーだってある。手を抜いてるんだから、逃すのは当たり前。」
会社としては大きな損失かもしれないけど。
百香はグラスを持て遊びながら、微笑む。
「ねえ、ダイチは、なんで私に会いたいって思ったの?」
「わからない。ただ、なんとなく……本当のモモを見たかったから。」
「見れた?」
「ああ。」
百香は自分達が思っているよりもずっと、S☆Sのメンバーをよく見ている。
それがどういう理由であれ、息を切らして駆けつけた百香を、ダイチは不思議な気持ちで眺める。
「じゃあ、帰ろう?」
百香はそう言って、伝票にカードを挟んでマスターに返した。
ダイチに上着を渡す間に、返却されたカードをスーツの内ポケットにしまう。
二人揃って店を出て、地上への階段をゆっくり登る。
ふと、ダイチが「足りない。」と、呟いた。
1段先を上る百香が「なにが?」と、振り返る。
ダイチは百香に手を伸ばして抱きしめた。そのままキスをして「足りない」と、今度ははっきりと言う。
「もっと、本当の百香を知りたい。」
< 44 / 77 >

この作品をシェア

pagetop