Shooting☆Star
「大丈夫」と、誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いて、立ち上がった百香は、まっすぐに代表を見る。
「わかりました。そのようにおっしゃるなら、私が責任を取らせていただきます。茉莉子さんの違約金も、全て私共がお支払い致します。その代わり、今後一切、彼女の選択と私共の判断に口出しはなさらないと約束して下さいます?」
そう言って、百香はにっこりと微笑んで続ける。
「お言葉ですが。貴方達、今、何を言っても、子供を諦めない限りは彼女をクビになさるんでしょう?先ほど商品とおっしゃいましたが、茉莉子さんも弘也も商品である前にひとりの人間です。どのような理由であろうと、彼女達の心に傷を付けて良いことにはならないかと。」
弘也の視線の先で、百香はいつもと変わらない微笑みを浮かべている。
柔らかな口調こそ崩さないが、しかし、その言葉と背中は静かな怒りに満ちていた。
黙り込んだ代表達を無視するように、百香は茉莉子の前に歩み寄る。
「ねえ、茉莉子さん。あなた、うちの事務所にいらっしゃい。」
椅子に座ってうなだれる茉莉子の顔を覗き込むように、床に膝をついて百香は言う。
「勿論、すぐにとは言わないわ。赤ちゃんを産んでそれから2年。出産と育児の休暇。仕事はその後よ。」
顔をあげた茉莉子の目を見て、百香は優しく微笑む。
「弘也を休ませてあげることは難しいけど。スケジュールは調整して、復帰するまでは、なるべく一緒にいられるようにするわ。どう?」
「百香さん…ありがとうございます。」
百香は立ち上がると茉莉子の手をとる。
「交渉成立ね。後で契約書を用意しておくわ。近いうちに事務所に寄ってもらえるかしら?」
茉莉子が頷くのを確認し、百香はその手を離すと、まっすぐにドアの前に向かった。
「社長、もう他に話す事はないでしょう?私達、そろそろ失礼しましょう。」
百香は返事も待たずに、くるりと振り返って深々と一例すると、「では、」と、ドアを開けて外に出る。
廊下を大股で歩き出す百香を、弘也は慌てて追いかけた。
すぐ後ろを社長が早足でついてくる。
車に乗り込み、百香がエンジンを掛けても誰も何も言わなかった。
駐車場から車を出して、大通りをゆっくりと事務所に向かう。
助手席に座った弘也は、運転しながら黙って前を見つめる百香を、不思議な子だな、と思う。
百香の頬を涙が伝うのに弘也は気付いた。
「モモ、ありがとう。」
そう言って弘也は「ぼくには怒る資格がない」と呟く。
「べつに。私はただ、あの脂ダヌキ達が白眼を剥くのが見たかっただけよ。」
そう言って、百香は濡れた顔のまま笑った。
百香の脂ダヌキという言い回しに弘也は思わずニヤける。
確かに、あの代表は信楽焼のタヌキのようだった。
「ヒロ、これだけやって、幸せにならないとか、許さないからね。」
百香は前を向いたままシャツの袖口で涙を拭く。
弘也は頷いて百香の視線の先をたどる。
「うん。約束するよ。」
「社長、ごめんなさい。勝手ばかり言って。…私、しばらくお給料は要らないです。違約金、払わないとだし。」
そう言ってミラー越しに後ろを見る百香に、社長は「バカねぇ…」と微笑む。
「大丈夫よ、それくらい。百瀬、全部持って行っちゃうんだもの。私にも“良いとこ”分けて頂戴。」
笑い合う二人を見て弘也は気付く。
ああ、この二人、似てるんだ。
きっと、百香の強さは、社長の影響なのだろう。
「私もあの脂ダヌキ、一度引っ叩いてやろうと思ってたの。」
そう言って社長は、「ちょっと忙しくなるわね。」と呟く。
「わかりました。そのようにおっしゃるなら、私が責任を取らせていただきます。茉莉子さんの違約金も、全て私共がお支払い致します。その代わり、今後一切、彼女の選択と私共の判断に口出しはなさらないと約束して下さいます?」
そう言って、百香はにっこりと微笑んで続ける。
「お言葉ですが。貴方達、今、何を言っても、子供を諦めない限りは彼女をクビになさるんでしょう?先ほど商品とおっしゃいましたが、茉莉子さんも弘也も商品である前にひとりの人間です。どのような理由であろうと、彼女達の心に傷を付けて良いことにはならないかと。」
弘也の視線の先で、百香はいつもと変わらない微笑みを浮かべている。
柔らかな口調こそ崩さないが、しかし、その言葉と背中は静かな怒りに満ちていた。
黙り込んだ代表達を無視するように、百香は茉莉子の前に歩み寄る。
「ねえ、茉莉子さん。あなた、うちの事務所にいらっしゃい。」
椅子に座ってうなだれる茉莉子の顔を覗き込むように、床に膝をついて百香は言う。
「勿論、すぐにとは言わないわ。赤ちゃんを産んでそれから2年。出産と育児の休暇。仕事はその後よ。」
顔をあげた茉莉子の目を見て、百香は優しく微笑む。
「弘也を休ませてあげることは難しいけど。スケジュールは調整して、復帰するまでは、なるべく一緒にいられるようにするわ。どう?」
「百香さん…ありがとうございます。」
百香は立ち上がると茉莉子の手をとる。
「交渉成立ね。後で契約書を用意しておくわ。近いうちに事務所に寄ってもらえるかしら?」
茉莉子が頷くのを確認し、百香はその手を離すと、まっすぐにドアの前に向かった。
「社長、もう他に話す事はないでしょう?私達、そろそろ失礼しましょう。」
百香は返事も待たずに、くるりと振り返って深々と一例すると、「では、」と、ドアを開けて外に出る。
廊下を大股で歩き出す百香を、弘也は慌てて追いかけた。
すぐ後ろを社長が早足でついてくる。
車に乗り込み、百香がエンジンを掛けても誰も何も言わなかった。
駐車場から車を出して、大通りをゆっくりと事務所に向かう。
助手席に座った弘也は、運転しながら黙って前を見つめる百香を、不思議な子だな、と思う。
百香の頬を涙が伝うのに弘也は気付いた。
「モモ、ありがとう。」
そう言って弘也は「ぼくには怒る資格がない」と呟く。
「べつに。私はただ、あの脂ダヌキ達が白眼を剥くのが見たかっただけよ。」
そう言って、百香は濡れた顔のまま笑った。
百香の脂ダヌキという言い回しに弘也は思わずニヤける。
確かに、あの代表は信楽焼のタヌキのようだった。
「ヒロ、これだけやって、幸せにならないとか、許さないからね。」
百香は前を向いたままシャツの袖口で涙を拭く。
弘也は頷いて百香の視線の先をたどる。
「うん。約束するよ。」
「社長、ごめんなさい。勝手ばかり言って。…私、しばらくお給料は要らないです。違約金、払わないとだし。」
そう言ってミラー越しに後ろを見る百香に、社長は「バカねぇ…」と微笑む。
「大丈夫よ、それくらい。百瀬、全部持って行っちゃうんだもの。私にも“良いとこ”分けて頂戴。」
笑い合う二人を見て弘也は気付く。
ああ、この二人、似てるんだ。
きっと、百香の強さは、社長の影響なのだろう。
「私もあの脂ダヌキ、一度引っ叩いてやろうと思ってたの。」
そう言って社長は、「ちょっと忙しくなるわね。」と呟く。