Shooting☆Star

「帰ろ。」
百香は机を片付けて、自分のハンドバッグを取り上げる。
「ねえ、このままユウくんの部屋に行ってもいい？明日、朝、早いし。一緒に本社行くでしょ？」
「いいけど。モモ、着替えとかは？」
祐樹は百香の2泊分の荷物を思い出す。
ファスナーのついた大きなトートバッグ。
百香を初めて抱き締めた、偽物の恋人達のあの夜。
百香が祐樹の部屋に泊まったのはあの夜だけだった。

祐樹が利き手に怪我をして手伝いに来ていた時も、百香は律儀に自分の部屋に帰っていた。
一緒に食事をして部屋やキッチンを片付けると、祐樹が困らぬようにと、片手で開けられるピッチャーに冷たい飲み物を用意し、朝の分のパンを籠に盛り、電気ポットにお湯を用意する。
洗濯物を片付けて、全ての家事が終わると「おやすみ」と言って彼女は帰って行く。
包帯が取れるまでの2週間、毎日、好きな人が家に来て、一緒に食事をし、家事をする姿を眺める。
毎晩、百香を玄関で見送りながら、帰ってしまうのは当然の事だけど、でも、こんなの生殺しだ……と、思う。
泊まっていけばいいのに。
そう言って抱き締めることが出来たら、どんなに楽だろうか？と思ってはいたが、祐樹はその一言が言えなかった。
きっと百香は、困った顔で笑って、祐樹に従うだろう。
それは、百香の本意じゃない。甘えて手に入れるようなことはしたくない。
ずっと、そう思っていた。

着替え……着替えねぇ……何か考えているようだった百香が、振り返って笑みを浮かべる。
「仕事着はここにあるよ。」そう言って、百香は自分のロッカーを指し示す。
「部屋着はまたTシャツ貸してよ。ユウくんお気に入りのなるべく大きいやーつ。」
「ああ、あの全然似合わないやーつ。」
祐樹もつられて笑う。
「彼シャツとか、それっぽいでしょ。」
「やめろよ、なんか、緊張するだろ。」