Shooting☆Star

☆3話☆


目覚まし代わりのアラームが鳴って、百香は布団に包まったまま枕もとを探って指先だけでスマホを探す。
手を伸ばした先にクシャクシャとした柔らかい毛の感触があって、一気に目が覚めた。
「おはよー」
寝返りを打つようにしてアラームを止めた祐樹が百香を振り返る。
「おはよう……」
そうだ、昨晩は祐樹の部屋に泊まったのだった。
もそもそと布団をまくり、上半身を起こした百香を見上げて、祐樹は目を細めた。
「モモ、眠れた?」
まだ眠そうな祐樹は、こちらに手を伸ばして百香の身体を抱き寄せようとする。
「夢みたい。起きてもモモがとなりにいる。」
昨晩の出来事を思い出し、互いの薬指に納まる揃いのリングに、これが夢でもその続きでないことも思い知る。
「ユウくん、ごめん。私、ユウくんに謝らなきゃいけないことがあるの。」
百香はまだ、大事なことを祐樹に告げてない。
15年半……S☆Sの誰にも言えなかったこと。
3年も付き合ったダイチにすら、黙っていたこと。
思わず正座する百香につられて起き上がった祐樹は、困惑した顔で百香に向き合うように正座する。
「朝からなんだよ。……残念、ドッキリでした。とか、やっぱ取り消すとか、そういうの無しだからな。」
心底不機嫌そうに言われて、それはない、それはないけど、その不機嫌はごもっともです…と、百香は思う。
「あのね、今日、ミーティングでしょ。その前に、社長に報告しなきゃならないよね。これ。」
これ、と言って、百香は祐樹の左手に自分の左手を重ねて、目の高さに掲げるようにする。
祐樹は、困惑した顔のまま百香を見る。
「それで……?それの何が問題なの。モモがオレに謝る意味がわからない。」
「社長……」
言い掛けて百香は言葉に詰まる。
百香の母が清香であることを知っているのは、事務所どころか業界でも極一部だけだ。
若くして病を患い引退した“悲劇の俳優”に娘がいたことも、大手芸能プロダクションの社長・木下清香がその娘の母だという事も、知る者は少ない。
自分の出生の秘密を、誰にも知られたくない……ずっと、そう思っていた。
同情されるのも、必要以上に勘繰られるのも、それで仕事がやり難くなるのも嫌だった。
「社長がなに?」
祐樹が百香の顔を覗き込む。
手を伸ばし、そのまま抱き締めるようにして、百香の背中をぽんぽんと撫でる。
「まさか今更、反対されるとでも思ってるの?そんなに不安な顔しなくても大丈夫だよ、モモ。」
嘘だったとはいえ、オレ達、既に事務所公認だし。
祐樹はゆっくり言って「支度しようか、」とベッドのふちに移動し、立ち上がる。
「ああ、そうか、社長もだけど、モモの親御さんにも報告しないと。カレンちゃんにも。」
ついでに思い出したように振り返った祐樹を見て、百香は「ごめん、」と呟く。
「社長、反対はしないと思うけど。……あの人が私の母なの…………。黙ってて、ごめん。」
全く予想していなかったであろう発言に、祐樹が「えっ」と振り返って固まる。
「あの人って……社長?」
「うん。あー。あのね、百瀬っていうのは父の姓なの。」
「う、うん。子供の頃に亡くなったっていう。」
「うん。だから、報告しなきゃいけないのは、母だけなんだけど…その…母が…社長の…木下清香…」
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