ピ リ カ(動物と会話する女の子)
十「モモの死とミルキー」


 ピリカと佐伯が札幌駅で別れて数ヶ月が過ぎた。

空には冬空特有の重そうな雪雲が「そろそろ白いものを下界に降らせましょうかね」といってるような感じがする。 ピリカはラインで近況報告をしていた。

ピ「今日、天気予報で今年初の雪マークを見ました」

サ「こちらは銀杏の葉が黄色く色づいて綺麗です」

ピ「ところで卒業後はどうするんですか?」

サ「オジンなので就職に難儀しております。 今日も不採用通知が…… これで三十九社目」

ピ「そっかぁ…… ガンバです!」

サ「頑張ります」

ピリカは思った。 佐伯さんはいい人なんだけど若さが、例の能力を活かした仕事に就いたら最高だと思うんだけどなぁ。 例えば、動物園、ペットショップ、警察犬訓練士、ウマ関係、ウシ関係けっこうあると思うんだけど……そんな時だった。

佐「就職の内定通知が来ました!」

ピ「やったぁ↑おめでとうございます。 で、どんな仕事ですか?」

佐「農家です」

ピ「家畜農家ですか?」

佐「いいえ、普通の果物農家です」

ピ「なんで農家ですか?」

佐「これからは農家の時代」

ピ「どこで農家しますか?」

佐「北海道の余市町です」

ピ「余市って小樽の隣の余市町?」

佐「そうです」

ピ「ゲゲッ、なんで余市ですか?」

佐「知人が余市町にいて紹介してもらいました」

ピ「春から働くの?」

佐「そうです。二年間は給与をもらいながら実習生として地元の農家さんに世話になり、その後は町の援助を受けて独立し自分の畑を持ちます」

ピ「頑張って下さい。 応援します! 因みに私の実家は同じ後志管内の倶知安町で、余市から車で四十分の距離です。 今度案内します」

そっかぁ、余市で農家か思い切った選択したのね。

そして季節は春。 佐伯は余市町に移住してきた。 引越しの手伝いでピリカは余市を訪れた。

「佐伯さん、本当に余市でいいの……? 農家はどこにでもあるのよ」

「余市じゃあ駄目なのかい?」佐伯は怪訝そうに言った

「駄目というよりも北海道の農家って半年は収穫が無いの。 それが大変で跡継ぎが無く離農する農家も多いのね」

「そこがいいのさ。 半年一生懸命働いて半年は自分の好きなことやって暮すんだ。 僕にはもってこいの仕事。 そして、出来るだけ沢山の動物を飼うのが夢なんだ。 動物といっても食用とは違うよ」

「わかってます。 私達にそんなこと出来ないよ」

「私達ってどういう事だい?」

「私達のような能力者のことよ。 それ以外に何か?」

「あっ、いや…… 僕が自立する頃はピリカさんも卒業だね。 ところで、これから余市神社にお参りに行こうと思うんだけど、ピリカさんも付き合わない?」

「うん、いいよ」

余市町の象徴シリパ岬、その下に神社は位置していた。

「へぇ、ここにも龍が関係してるんだ」ピリカが呟いた。

「なんか言った?」

お参りを済ませ神社の境内から港を眺めピリカ唖然とした。 港に浮かぶ数隻の船の上にそれぞれ小さい龍が船を見守るように浮かんでいるのが視えた。

「余市ってチョット不思議な町ね」

「えっ、何が??」

「何でもない。 でも、私は山の生まれだから海の事よくわからなかったけど、どこか心引き締まる思いがしていいわね……」

「何が?」

「いいの! 特に視界が広いのがいい。 あの水平線の向こうはロシア…… なんか不思議」

「そうだよね、ロシアか僕達本州の人間には無い感覚だ」

「そうだ私、倶知安によって札幌に帰る。 駅まで送ってください」

「ああ、また遊びに来てよ」

「わかりました」


倶知安に帰省した。

「ただいま」

小屋から愛犬モモと猫のユメとミロが顔を出した。

「みんな、ただいま」

モモが「ピリカおかえり」

ユメとミロが同時に「ピリカお姉ちゃんおかえり」

「ユメもミロも大きくなったね、元気だった?」

三匹とピリカはしばらく笑いながら戯れた。

「おや、ピリカおかえり」

「お父さん、ただいま」

「どうだね調子は?」

「うん、変わりないよ。 そろそろ卒業後の進路決めようかなって思ってるんだけど、なかなか思うところがなくって」

「そうか、もうそんな時期なんだ。 五年なんてあっと言う間だな、もう就職の事考える時期なんだ」時の早さを感じた。

「な~にお父さん、チョット爺くさいけど」

そこに母親が声を掛けてきた。

「何ですか、お父さんに向って爺くさいなんて」

「だって、お父さん、お爺ちゃんみたいな表情するから」

「今日は連絡も無しにいきなりどうしたの?」

「うん、用事で余市に来てたから帰って来たの」

「じゃあ、泊まっていくのかい?」

「うん、泊まっていく。 で、ミミは?」

「相変らずミロと不良してるよ」

「ミロはさっきモモの小屋にいたよ」

そんな時だった。ベランダのガラスをユメとミロが開けろと叩いていた。

「ハイハイ、どうしたの?」ピリカはベランダを開けた。

「お姉ちゃん、モモが…… どうしよう。どうしよう」

ピリカは咄嗟に玄関に向った。 長い舌を出し泡を吹いているモモの姿があった。

「モモ! どうしたの?」

軽く目を開けた。

「どこが痛いの?」

「……」

「ねえ、どこが痛いの? モモ!」

「……」

「ユメ、お父さんとお母さん呼んできて!」

ピリカは眼を閉じた「ルーお願い! 教えて!」無我夢中でルーに語りかけた。

繰り返したが応答がない。

「ルー教えてお願い!」

やはり返答がない。 次に取った行動はモモの心臓の辺りに手を添える事だった。 ピリカはモモの身体の中に入っていったが疾病ヶ処がわからない。

「ルーどこが悪いの? 教えて!」

「寿命」

「なに? 寿命ってどういう事? 嘘でしょ、さっきまであんなに元気だったのにルー!…… 
嘘と言って! ねぇ」

ピリカの意識が戻った。

「ピリカ、どうかしたのかい?」母親の声だった。 と同時にモモの異変にふたりは気が付いた。

「モモ、どうした? おいモモ」父親の呼びかけにもなんの変化もなかった。

小屋の上でミロとユメが心配そうにしていた。

ピリカが口を開いた「ミロ、お願いあるの。 ミミを急いで探してきて! モモが死にそうだって伝えて」

ミロが「ピリカお姉ちゃん、モモ死んじゃうの?」

「わからないけど、とりあえずミミを呼んできて。 ミロならミミがどの辺にいるかわかるでしょ。 さあ早く!」

そのやり取りを見ていたユメが小屋から飛び降り、モモの頭を小さな舌で舐め始めた。

母親が「ピリカ、何があったのか説明して」

「心臓が弱ってるの。 この様子だとたぶん明日までは持たないと思う。 リビングにモモ運んでいい? 寒がってるから毛布を何枚か持ってきて」

モモはリビングに移されたが様態に変化はなかった。 その時、ミミがベランダのガラスを叩いた。 ピリカが窓を開けミミとミロをリビングに入れた。 ミミはモモのところに向った。

「モモ、モモ、ねぇモモ! なんか言ってモモ」

横たわっていたモモのシッポが微かに動いた。 モモの身体を三匹の猫が舐め回す光景がいたいけだった。

ミミが「モモごめんね、いつもミロとユメの面倒を……ありがとうね。大好きだよモモ」

ピリカはミミ達の会話をそのまま両親に伝えた。 父と母はモモと猫たちの光景を泣きながら見ていた。

母親が「ピリカ、本当にモモはもう駄目なの?」

「正直、大学でこんな光景は何度も診てるけど大方が無理だった…… たとえ今、薬で持ちこたえたとしても長くは持たないと思う」
 
「だってお前のあの能力があるだろう?」母親も泣いていた。

「やったわよ!」ピリカの強い語気だった。

「でも、たぶん無理、ガイドが寿命って教えてくれた……」

部屋には沈黙が走り三匹の猫がモモを囲んでいた。

ミミが「ピリカ姉ちゃん、モモなんとかして、ねぇ元気にして、ねぇ、お願い……」

ピリカには返す言葉がなかった。 そして三時間後そのままモモは旅立った。 ミミ・ミロ・ユメは、その後もモモの遺体に寄り添い顔を舐め続けていた。

「みんな、モモは遠くに行ったよ」ピリカにはそれ以上の言葉が出てこなかった。

ピリカは翌日の昼頃札幌に戻り、ピリカとモモが一緒に写った遺影を机の上に飾った。 瞬間脳裏にはピリカが小学生の時、モモが家にきた日の記憶が鮮明に甦ってきた。 また涙が溢れてきた。 動物の死には幾度となく出くわしているが、我が身に起こった時の衝撃は特別のものがあった。 ペットを連れてくる家族はみんな同じ思いなんだと、生命に携わる仕事の重みをモモが教えてくれた。


それからしばらく勉強に専念し六年の大学生活を終え獣医師免許を取得した。 合格の報告で倶知安町に帰省した。 家の横にあったモモの小屋は撤去され花壇になっていた。

「ただいま~」

「ピリカ帰ったの?」出迎えたのはミミだった。

「ミミただいま。ミロとユメは?」

「最近、家に帰ってこないの」

「へ~どこかに彼氏でも出来たかな? ミミは元気?」

「うん、元気」

「あんた、何歳になるの?」

「この家に来て九回雪降った」

「じゃあ九歳半くらいか…… 婆ちゃんジャン」

「べ~べ~」
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