ピ リ カ(動物と会話する女の子)
十四「クロ助」最終章

ピリカが佐伯と暮らし始め3三ヶ月が過ぎ、南から暖かい風が吹き付ける季節となった。 春の日差しが心地よく感じられた。 ピリカは大学時代の先輩が働く余市町内の動物病院に勤務し、獣医師としての感が徐々に取り戻せてきた。 ある時、小学生の女の子が段ボールに入った一羽のカラスを持って病院を訪れた。 生後ふた月くらいと思われる幼鳥だった。

ピリカが女の子に「このカラスどうしましたか?」

「道路に落ちていました」

よく診ると羽の付け根から血が滲んでいた。

「この鳥の近くに親のカラスがいなかった?」

「見なかった」

「そう、あなたこのカラスどうしたいですか?」

「治して下さい」

「治ったらどうしたいですか?」

「お空に飛ばせて親のところに帰します」

「野生のカラスはね、人間が一度触れたら、人間の臭いがするからもうその子は育てないのよ……」

「えっ、そしたらこのカラスどうなるんですか?」

「わかりました。 私が親代わりになって育てます。 それでどう?」

「えっ、お姉さんが? じゃぁお願いします」

「はい、わかりました。 でも、ひとつ覚えておいてね。 野生の動物というのは人間の臭いが付くと、たとえ我が子でも育てなくなるの。 覚えておいてね!」

「はい、わかりました」

女の子が帰った後ピリカは思った。さて、どうしよう。 佐伯さんに相談しないで勝手に決めちゃったけど。

帰宅した佐伯は鳥かごを見て「あれ? 君どうしたの?」カラスに語りかけた。

カラスが「お家に帰りたい。 お家に帰る」

ピリカただいまお~い、ピリカ~?」

「は~い」

「どうしたの? このカラス」

「ごめんなさい。 成り行きで飼う事になってしまったの。 ハシブトカラスなんだけど少し怪我してるの。 普通なら自分で捕食できる時期に入るんだけど、怪我してるから無理みたいなの。私が面倒を見るから傷が治るまで飼わせて下さい」

「いいけど、餌とかどうするの?」

「一日に五回程度、割り箸で口に放り込むのね。 餌は大型の鳥用の餌に人間の食べる物を適当に混ぜるだけ。 私が面倒見ます」

「名前は決めたのかい?」

「名前を付けると情が移るから決めてません」

「クロ助ってのはどう?」

「いいの?」

「だって名無しだと可哀想だよ」

「じゃぁ、クロ助に決定しましょう」

こうして、ハシブトカラスのクロ助が仲間入りすることになった。 それから一月半が経過した。傷口は完全に癒えたがいっこうに巣立つ様子が感じられない。

ピリカが「クロ助、あんた自分で餌採れるでしょ? もうそろそろ巣立ちしなさいね」

「ピリカ、クロ助嫌い?」

「好きです」

「いや、嫌いなんだ。 だからいなくなればいいと思ってるんだ」

「そんなこと言ってないでしょ?」

「いいもん、佐伯さんに聞くもん」

「前から感じてたんだけど、私はピリカって呼び捨てなのに、佐伯さんだけなんでさん付けなの?」

「さんって何?」

「そっか、私がいつも佐伯さんって呼んでるからか、わかった。 忘れてごめん」

クロ助が「佐伯さんに聞くの」

「何って?」

「クロ助いないほうがいいの? って」

「あのね、そんないい方ヘンでしょ」

その時だった。

「只今帰りました」

クロ助がいち早く出迎えた。

「佐伯さん」

「おう、クロ助ただいま」

「クロ助いないほうがいいの?」

「何それ? なんでそんなこと聞くの?」

「ピリカが出ていけっていうの」

後ろから声がした「クロ助、なんなのそのいい方は」

佐伯が笑いながら「どういうこと?」

「さっき、クロ助にそろそろ巣立ちしなさいっていったの 。そしたら私が出ていけっていったと佐伯さんに説明してるの」

「そんなことで喧嘩してるのかい? 一緒にこの家でこのまま暮らしたらいいじゃないか? 駄目なの? どうせクロ助に彼女が出来たら黙ってても出て行くんだろ?」

「そうだけど」

「よし決定! クロ助が結婚するまで一緒に暮らそう」

クロ助が「よろしくっ」

ピリカが「あんたはYAZAWAか?」

クロ助が「なにそれ?」

「いいの! あんまりカ~カ~鳴かないでね。 うるさいと追い出すよ」笑いながらピリカがいった。

「ハイ、わかった」

ピリカが「改めて宜しくねクロ助」

「よかったな、クロ助・・・」

こうして三人のいや二人と1一羽の生活が始まった。


クロ助は人間社会で生きていく事になった。 日中は外を自由に飛び回り夕方になると軒下に来て佐伯とピリカとクロ助で会話を楽しんだ。

ピリカが「クロ助、あんたこの家に来て一年経つよ。 早いね。 まだ彼女出来ないの?」

「なに? 出ていけって言うことかぁ?」

「あんたね、前から思ってたんだけどさ、どうして私の言葉をひねくれて受け取るのよ?」

「ピリカ、クロ助が早く出て行けばいいと思ってるかぁ」

「そんな事、思ってませんから!」ピリカは少しムキになっていた。

「いや、思ってるもん……かぁ」

「あ~めんどくさい! 勝手にしたら!」

「ほら、思ってるもん…… かあ」

そこに佐伯が「二人とも止めなよ、まったく。 それよりクロ助、明日の天気はどう?」

「曇りで、昼頃から雨! かぁ」

「ありがとう、毎日助かるよ」

ピリカは目を丸くして「なに、あんた? 毎日、天気予報やってるの?」

「カラスは気象など環境の変化に敏感なんだ。 天気は大体当たってるよ」

「カラスって言わないで、かぁ」

「ごめん、クロ助に訂正。これでいい?」

「他にどんな事が予知出来る?」ピリカがきいた。

「死はすぐにわかるかぁ」

ピリカが「ああ、それ昔聞いたことある。 臭いか何かでわかるの?」

「雰囲気だべ……かぁ」

「な~るほどねっ」

この時ピリカは犬や猫とカラスの意識の違いを感じていた。 カラスはとかく死に神の使いなどと言われてきたけど、その死を感知する能力が長けていたり、何処か犬猫とは違う能力から、死に神の使いと恐れられていると感じた。

ピリカは理恵の事を思い出しても以前のように動揺しなくなっていた。 佐伯の存在と時間の経過がピリカを癒したといっても過言ではない。 そしてクロ助の存在も当然大きく影響していた。

その日はどんよりとした重たい空気が身体にまとわりつく日だった。

佐伯が帰宅した「ただいま~」

「お帰りなさい」

ピリカは佐伯の発する声の感じに違和感を感じた。

「佐伯さん、どうかした?」

ピリカの顔を見た途端、崩れるように倒れ込んだ。 咄嗟にピリカは佐伯の手を握り佐伯の意識と同調を計った。 佐伯の身体に侵入したピリカは異常の部位を探した。 初め脳に集中し、次に心臓、そして肺とその周辺の部位に意識を集中したが全然わからない。

「どこ? どこが病んでるの? 佐伯さん答えて! どうしたの?」

何の変化もなく時間が過ぎていく。 佐伯の心臓の動きがだんだんと弱くなっていくのがわかる。

「ルー、お願い教えて!」ルーにすがったが、なんの返答もなかった。

焦ったピリカは佐伯のガイドに話しかけた。

「佐伯さんのガイドさん、どういう事? 何をすれば良いの? どうか教えて下さい」

何度も何度もガイドに話しかけた。 ピリカの心の奥から声がした。

その時だった。救急車のサイレンが家の前で止まり数人の救命士が入ってきた。

救急隊員が「どうしましたか?」

「急に倒れ込んだんです」

「ご主人に持病はありますか?」

「無いと思います」

隊員は「佐伯さんわかりますか? 佐伯さん」
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