ピ リ カ(動物と会話する女の子)
七「霊能者Fとピリカ」


ピリカは高校を卒業し札幌市内の大学に理恵と一緒に入学した。 ピリカは獣医学部、理恵は建築学部へ通うことになった。 札幌に来て三ヶ月が過ぎた頃。

ピリカが「理恵は夏休み帰省するの?」

「親が、バイトがないなら帰ってこいって言うからとりあえず帰る。 どのくらい帰ってるかわからないけど。 で、ピリカは?」

「一週間ぐらい帰ろうと思う。 モモやミミとその子供達にも会いたいし。 でも、その前にアルバイト探そうと思ってるんだ」

「私も秋からアルバイトする。 いい所あったら教えてね」

「了解」

ピリカはアルバイト情報誌を購入した。

「なにこれ? 夜の商売ばかりじゃん。 でも、日中の仕事と違い時給高いのね。 時間的には都合良いし、内緒で夜働こうかな……? 短期間で稼いじゃおうかな?」安易な考えだった。

そしてピリカは夜、働く事にした。

ここはススキノにある「スナックRON」そう、ピリカは内容はともかく、店名に惹かれて勤めることにした。 夜八時から十二時迄の四時間で一万円。 別途タクシー交通費支給。 夜の仕事は同い年の友達が働く一般のパートの倍以上の時給。

初日、和子ママから他のホステスに紹介された。

「今日から働くピリカちゃん二十歳。 昼間は大学生ですって。 この商売初めてだからみんな丁寧に教えてあげてね。 初日はキョウコちゃんに教えてもらって」

「私、キョウコ宜しく」

「私、アケミ宜しく」

「私、リエ宜しく」

「ピリカです。 何もわからないので、どうぞよろしくお願いします」

勤めてから二ヶ月が過ぎた頃だった。

「いらっしゃいませ~~」

「おう、ピリカちゃん元気だった? だいぶホステス業が馴れてきたみたいだね」

「はい、おかげさまで緊張しなくなりました。 オネェ様達が良くしてくれますので」

「それは良かった。じゃぁ乾杯」

RONはカウンターだけのBARスタイルの店。 ママが大の麻雀好き、役が出来て上がった時の「ロン」というかけ声が好きで店名にしたらしい。

ある時、客の小林が「最近さぁ、犬のムラサキの調子が変なんだ。心配でさっ」

「動物のことならピリカちゃんが詳しいですよ」リエが言った。

ピリカが呼ばれた「小林さん、いらっしゃいませ」

「ピリカちゃん、動物のこと詳しいだって?」

「この春から勉強を始めたのでまだ何にもわかりません。 因みにワンちゃんどういう症状ですか?」

「たまになんだけど食べてすぐもどすんだ」

「予防接種しましたか? もしかしてフィラリアかもしれません」

「やってない、座敷犬だし散歩しないからいいと思って」

「フィラリアは蚊が媒体ですからそういうの関係ないと思います。 獣医へ診せて注射して下さい」

「ありがとう。明日、病院に行ってみるよ」

そんな具合にピリカはペットの相談も多かった。 だが、ピリカの他の能力のことは一切話していなかった。


 RONに勤めて半年が過ぎ、従業員ともすっかり仲良くなり、客が入り始めるまでの一時間あまり、先輩ホステスとの雑談がピリカお気に入りの時間となっていた。

リエが「私のホステス仲間の夢香って娘なんだけど、今、スピリチュアル系にはまってるのね。一年ぐらい前から東区にあるFの会の会員になってるらしいの。

アケミが「Fの会? あっ、それ聞いたことある! スホステス系が結構入信してるって聞いたことある」

リエが続けた「夢香の話しだと、会費は月三千円でまあ普通なんだけど。 事あるごとに除霊代三万円だとか、先祖や水子供養代五万円だとか、あなたの守護霊は力がないから十万円で交代しませんかって、結構な代金を要求されるらしいの……。 だから私、それってお金目当てでしょ? 辞めなさいって言ったの。そしたら、夢香がこんな事言ったの。 『教祖のFさんには龍神様が憑いて守護してるの。 だから絶大な法力があるから邪悪な霊は太刀打ちできない。 そしてそのFさんは、宇宙とも交信できる脳力があるの、宇宙人は今の黒い地球はこのままだと終焉を迎える。 それを救うためにはFさんと私達会員の祈りが大事』っていう話しなのどう思う?」

キョウコが「言ってることはもっともらしいけど、先祖や水子供養など昔からある霊能者の現代版みたいだね」

アケミが「聞いた話しだとそのFさんにどうして名前を名乗らないの? って誰かが質問したらしいの、そしたら『売名行為は一切しません』だって。 なもんだからこれは本物だって一気に広まったらしいのよ」

キョウコが「ますますごもっともな話しね、ピリカはどう思う?」

ピリカは「龍の存在は認めるけど、自分の守護霊を変えるなんて本当にそんなことありえるの?って感じです」

リエが「そうよね、目に見えない話しは実証できないし解らないものね。 言った者勝ちみたいなもんよ、でも、そういう話し結構好きなの私……」

「いらっしゃいませ~~」ママの声だった。

それから数日が経ちリエが「この前のFの会の話しなんだけど講演会に誘われてるのよ。 だれか一緒してくれない?  講演料はビギナーは無料なんだって、ねえ誰か付き合わない?」

だれも手をあげなかった。

「ねえ、ピリカちゃん付き合ってくれない?  途中で帰ってもかまわないらしいし! 
ねっ、ピリカちゃんどう?」

「……わかりました。 いいですけど……」渋々こたえた。

 
 二人は会場を訪れた。 五十席ほどの小さな会場で、ピリカが味わったことのない独特の雰囲気が感じられた。

受付で「どなたのご紹介ですか?」と聞かれ、

「夢香さんからの紹介です」

その時、後ろから「リエちゃん、いらっしゃい」夢香だった。

「どうぞ、ご自由に席にお座り下さい」受付の丁寧な応対だった。

ピリカは席について会場の雰囲気を感じていた。 開演の時間となり正面のホワイトボードの前に現われたのは、年の頃なら五十代と思われる小太りでチョット派手目な婦人だった。 会場は一気に緊張と静寂に包まれた。

「皆さんこんにちは。 今日はようこそFです。 今日の講演内容は………」

ほぼ二時間、霊障の話しから、宇宙の事など面白おかしく話は続いた。 会話によどみが全く感じられなかった。 言葉を巧みに使い分け内容は興味をそそるものだった。 ただし龍神の話以外は……

質疑応答の時にその事を聞こうとピリカは思っていたが、最後まで質疑応答は無く講演は終了した。 リエとピリカが会場を出ようとしたとき二人に声が掛かった 。振り返ると会の役員らしき中年男性。

「お二方さん、ちょっとお時間よろしいですか?」

「ハイ」リエが応えた。

「お二方は夢香さんのご紹介ですよね?」

「ええ」

「Fさんのお話しの内容はどうでしたか?」宗教関係者らしい丁寧な優しい口調。

リエが「はい、大変参考になりました。 ありがとうございました」

「今日の話しで何かご意見や質問はありませんか?」

ピリカが「ひとついいですか?」

「はいどうぞ」

「Fさんは龍のことを龍神と言ってましたけど、私の認識では龍は神の使いであって、神とは違うって聞いてますけど、その辺のところ教えてくれませんか?」

「昔から龍神っと言いまして、龍は神扱いされてますけどそれがなにか?」

「羊蹄山のRONさん、賀老の滝のBANさんが、龍は神ではないって本人が言ってたものですから……」

リエが「本人って? 龍、本人ってこと……?」

「ええ……」

その中年男性が言った「Fさんはそんなこと言ってませんでしたが」

「だから私そのへんのところ質問しようと思ったら終ちゃったんです……」

「ピリカさんはその龍神さまとどんな話しを?」

その男性はどこかピリカを小バカにしたような蔑む言い方だった。

「だから、自然をつかさどるのが龍の仕事だって……」

「それはその、RONさん? BANさん? どちらが?」

「賀老の滝のBANさんです」

「ちょっと待って下さい」その中年男性は席を外した。

そこに遠くからその様子を見ていた夢香が二人に近寄ってきた。

「リエこの人……なんなの?」

「私も今初めて聞いたのよ……」

そこにFさんが歩いてきて正面椅子に座った。

「あなたが竜神のことで聞きたいという方なの?」

少し威圧的な態度だった。

「はい、私です」

「何故、龍が神でないといえるのかしら?」

「はい、知り合いの龍がそう言ってたものですから」

「なんて?」

「龍は自然を司るもの、神ではない。 と賀老の滝のBANさんが……」

「じゃぁ、ここに出してみなさい。 そのBANとやらを」

「私、そんなこと出来ません……」

「それだけ大きな口、叩くんなら出しなさいよ!」だんだんと威圧的になってきた。

その時、ルーが久々に話しかけてきた。

「ピリカ、感情的にならない! 話に乗らない!」

静かな口調でピリカが切り出した。

「じゃあ、Fさんの龍神さんを先に拝見できますか?」

二人の間に沈黙が走った。

なおもピリカが「Fさん、無理いわないで下さい。 龍はその地域の自然や天候を司るって聞いてます。 我々の都合で簡単に呼び寄せるなんて私には出来ません。 勘弁して下さい」

「じゃぁ、その龍はどんな色と姿をしてたの?」

なんだか素人っぽい質問とピリカは感じた「普通にお寺や掛け軸にあるような形で、色は白い龍と黒い龍でした」

「あなたの龍はまだまだね」

「まだまだとはどういうことですか?」

「まだまだ下のレベルってことだけど……」

「龍に上下があるんですか?」

「当然あるわよ」

「RONが龍は神界と人間界の狭間って言ってましたし、龍に上下はないとも」

「下っ端の龍はそういう言い方するのよ」

「そうですか? わかりました」

「あんた、UFO視たことあって?」Fは話しをすり替えてきた。

「宇宙機は乗りましたけど。 その時、地球も月も視ました」

「嘘いいなさい!」

「あの~。 Fさんに嘘いってもわたしに何のメリットもありませんけど……」

「じゃあ、それはどんな感じだった?」

「感じではありません。実体験をそのまま話します。 全体が乳白色で低い電磁パルスのような音がしてました。 出入り口はなく何処からでも侵入出来ました。 形は丸い大きなものと
卵を少し潰したような小さいタイプしか見てませんけど」

リエと夢香は二人のやり取りを片時も目を離さず聞き入った。
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