恋は、秘密主義につき。
言い方は素っ気なくても、口数が少ないのを気にかけてくれていたのかと、胸の真ん中がじわりとして、張っていた気持ちが解けていくようでした。

愁兄さまのように柔らかく包みこんでくれる愛情とは違うけれど。安心させてくれる、強くて無口な優しさを知っている。

だから私は。
何も知らなくても。
過去が何であっても。肌で、空気で、感じたままに貴方を信じて。好きになった。

それだけのことなのかも知れません。


「・・・明日も佐瀬さんに会いたいって思ってました」

小さく微笑み返せば、少し困ったように頭を掻く仕草。
やれやれとでも言いたげに、溜め息雑じりで。

「定時で帰れるんだろ? 駅まで迎えに行くからラインくれりゃいい」

「いいんですか・・・?」

何もない日は時間も早いので、特に送ってもらったりしてはいませんでした。
思わない返事に、逆に目を瞬かせてしまった私。

「半分は仕事だ」

ぽんぽんと頭の上に乗せられた掌は。さらりと流された言葉とは裏腹に、優しく髪を撫でて離れていく。

肩を揺らしてゆっくりと歩き出した佐瀬さんの隣りに、また並んで。
今はせめて。傍らに寄り添える幸せにただ浸っていたいと思いました。


何も考えずに。





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