恋は、秘密主義につき。
そのまま抱き付けば、頭の上で「・・・どした」と和らいだ声がした。

「戻ってやらねぇと、保科が拗ねるぞ」

持ち上げた視線の先には人が悪そうな佐瀬さんの顔があって。
なんだか気が抜けたと同時に、小さく笑いが込み上げてしまいました。

「私も拗ねてますよ。ちゃんと挨拶もしていないのに帰るなんてひどいです」

「あー・・・悪かった。浮気なんざしねーから心配すンな」

芝居がかって億劫そうに言ったか言わないうち、頭の後ろを捕まえられて塞がれた唇。
弱い舌先を悪戯してから私を離し、目を細めて貴方はふっと口角を上げた。

「オレはオマエのもんだ。・・・信じてろ」

これから何があっても。

その一言だけで。なにかが全部、掬われた気がしました。
震えた心臓が切なく鳴いて、きゅうと締め付けられた。

愛してると言われるよりこんなにも心強くて。嬉しくて愛しくて。

「佐瀬さんも・・・私を信じていてください」


祈るように深く目を合わせ。
その刹那、二人が誓い合ったのは。

天にでも、神さまにでもなくきっと。
貴方の背中に刻まれた十字架に。・・・だったでしょう。





佐瀬さんを見送って、ふわりとスカートを翻す。
一歩一歩しっかりと絨毯を踏みしめ、迷いなく扉に手を伸ばした。

「愁兄さま、お待たせしちゃってごめんなさい」

不安も躊躇いもない笑顔を、満面にほころばせながら。
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