そのままの君が好き〜その恋の行方〜
和樹さんと奥さんの離婚話は、簡単には進んで行かなかった。


明日にでも、実家に戻すと和樹さんは、言っていたけど、やっと帰って来たママを、絵里ちゃんが離そうとはせず、和樹さんも、奥さんを実家に強制送還するわけにはいかなくなってしまった。


更に、周囲も離婚に反対だった。奥さんの親はもちろん、和樹さんの両親もお姉さんも、まだ子供も小さいし、奥さんも反省してるようだから、今回ばかりは許してやったら、どうだとの意見らしかった。


当の奥さんは、私を見た時の剣幕はどこへやら、ひたすら謝罪に徹していたらしいが、奥さんのお父さんは


「君だって、娘がいなくなって、寂しくて、別の女性を口説いたんだろう。娘の気持ちをわかってやってくれてもよかろう。」


と言い放ち、和樹さんを激怒させたのだそうだ。


「誰も俺の気持ちなんか、考えちゃくれない。アイツは俺と娘を裏切り、捨てたんだ。そんな女を許したり、もう1度、愛することなんて、出来る方がおかしい。なのに、俺の方が、度量や包容力、忍耐力が足りないと責められる。それに俺の加奈への気持ちは、そんないい加減なものじゃない。」


電話で、和樹さんは苦しい胸の内をこう打ち明けたが、私は何も言えなかった。


私とのことが、明らかに和樹さんの立場を苦しくしていた。会うことも憚られる状況になった私達が、久しぶりに顔を合わせたのは、夏の余韻もとうになく、秋深しの気配が強まって来た頃だった。


「加奈。」


私はそう呼びかけてくる和樹さんの顔を見つめる。すっかり頬がこけ、面変わりしてしまった彼の顔が、ここしばらくの、彼の苦渋の日々を物語っていた。


「辛い時間を過ごさせてしまった。スマン、俺のせいで・・・。」


しかし、和樹さんは、私のことを気遣ってくれる。私は静かに、首を横に振った。目の前にはみなとみらいの景色が広がる。穏やかな日だった。


「今日は、時間を取ってくれてありがとう。いろいろあって、なかなか会えなかった。許して欲しい。」


まっすぐに私を見つめて、和樹さんは話してくれる。


「俺が不甲斐ないばかりに、事態が全然進まなかった。いまだに、あの嫁さんと一緒に住んでる、恥ずかしいよ。」


「ううん、そんなこと・・・ありません。」


「だけど・・・俺は決めたよ。嫁さんとは別れる。キチンとけじめを付ける。もうあの家に戻るつもりはない。だから・・・もし加奈が望んでくれるなら・・・これからの人生を一緒に歩んで行きたい。君と2人で。」


そう言ってくれた和樹さんの顔を、私は見つめていた。
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