legal office(法律事務所)に恋の罠
今までの奏であれば、酔った妹を自分以外の男に送らせるなどどいったことは絶対にしなかった。

親代わりとして大事に育ててきたからか、周囲からは度か過ぎた過保護とか、シスコンなどと揶揄されてきた。

おかげで過去の恋人からは、妹というのに過度のやきもちを焼かれ、最後にはうんざりして別れるということを繰り返していた。

いい加減な付き合いはしない奏だが、正直、どの恋人も妹よりも大切な存在とは思えなかった。

ここ数年は、仕事も忙しく、ボストンの経営危機は想像以上だったので、恋人はいなかった。

それなのに、

10日前に親友の彼女である警察官の直美に紹介された弁護士、和奏から目が離せないでいる。

冷たいアイアンフェイスも彼女の美しさを否定するものにはなり得ない。

男嫌いと聞いていたが、叔父の山崎弁護士や従兄弟の湊介に見せるふとした笑顔は瞬殺ものだった。

冷たい表情の裏に見える優しい言葉の数々。

クライアントを第一に考える姿勢は誠実以外の何者でもない。

しかし、どんな明かりを持ってしても、彼女が纏っている闇を拭い去ることはできないと、そう感じていた。

彼女のすべてが知りたい。

莉音と湊介が部屋を去った今、無敵のアイアンフェイスに動揺が見え隠れするのを感じる。

この料亭に入る前に、湊介がそっと耳打ちして教えてくれた。

「和奏は僕たち家族が同席しなければ絶対にお酒は口にしません。飲んでも少量なのですが、少し素直になった和奏は男が悶絶する程レアですよ」

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